しがないマーケターの戯言

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ネガティブなクチコミが信頼性を高める?|クチコミの科学

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インターネット、そしてソーシャルメディアが広まり、一般顧客が発言力を増している現在では、「クチコミマーケティング」は多くの企業で重要視されている。世界中の研究者たちが、このクチコミの原理について研究している。

その研究結果には、衝撃的な内容もあるが、意外と知られていない。この記事では、その中のいくつかをご紹介したい。参考にした書籍は以下。

 

ネガティブなクチコミが信頼性を高める?

ある商品に対するeクチコミ(ネット上のクチコミ)は、ポジティブなクチコミの数が多く、クチコミの量が多い(長い)場合に、よりその商品の売り上げが伸びるという研究がある。一方で、一定の割合でネガティブなクチコミが含まれているほうがクチコミに対する信頼性が高まるという研究結果もある。

立命館大学の菊盛真衣准教授の研究では、ネガティブなクチコミの影響は、クチコミの対象となる商品の特性によって異なる。対象となる商品が、デジタルカメラといった実用財の場合は、ネガティブなクチコミは、全く無いほうが製品評価は高まるが、映画や漫画といった快楽財の場合は、20%ほどネガティブなクチコミが含まれるほうが、逆に製品への評価が高まるというのだ。

 

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菊盛真衣「eクチコミと消費者行動」より

ECサイトにポジティブなクチコミしかない場合は、消費者はそのページに偏った情報しかないと感じ、クチコミの信頼性を疑問に感じる。ただし、実用品の場合は、消費者は製品の効果を最大化したいと考えるため、ネガティブなクチコミがあるとその影響をより受けやすいと考えられる。

クチコミを促すと製品評価が低下する?

一般的に、クチコミの影響に関する研究は、クチコミの受け手に向けられがちだ。クチコミが、受け手となる消費者にどのように影響を与えるのかという観点だ。しかし、千葉商科大学安藤和代准教授の研究では、クチコミは、その発信者にも影響がある。

ポジティブなクチコミをすると、その当事者(発信者)自身の商品に対する評価は次第に下がり、再度クチコミをする意向も下がるというのだ。

理由は、クチコミにより感動的な消費体験を言語化することで、クチコミをした本人の中で、その体験に対する理解が進み、一般化することで、感動体験が薄れる場合があるからだという。

この研究結果は、ポジティブな消費体験に関するクチコミの発信を促すようなマーケティング施策にリスクがある可能性を示している。ただし、上記のネガティブな影響は、そのクチコミの語り方にも影響を受けるとされている。論理的に語ると上記のようなネガティブな影響が出るのに対し、感情・感覚的な内容のクチコミの場合はネガティブな影響が無いという見方もある。

クチコミ推奨プログラムは効果が無い?

多くの企業では、クチコミに対する推奨プログラムがある。クチコミや紹介活動に対して、企業側が報酬としてプレゼントや値引きを提供するような、いわゆる友人紹介プログラム(リファラルプログラム)だ。

しかし、クチコミマーケティングのある研究では、必ずしもこの推奨プログラムに効果があるとは言えないという。推奨者と推奨相手の人間関係のつながりが深い場合、または推奨者がその商品に対して強い推奨度を持っている場合(ファン度が高い)場合には、報酬(プレゼントや割引)は効果が無いことが確認された。

人は自分がなぜそのような行動をとったのか、その理由を理解したいと考えるものだが、報酬を受け取ることで、自分の推奨行動の理由が不明瞭になる。「良い商品だから、人に紹介する」「相手のためになるので紹介する」という行動理由に、報酬を受け取るという利己的な理由が加わることで、同義が不明瞭になる。

クチコミ推奨プログラムの企画や開発に多くのリソースを割いているマーケターは少なくないはずだ。上記の研究ではそれが時にはクチコミの阻害要因になるということを示している。

 

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以上、クチコミマーケティングに関する意外な研究結果をご紹介した。自分は今クチコミマーケティングの企画を担当しているので、上記のような研究結果は衝撃だった。上記を踏まえつつ、企業側ができる本当に効果のある方法はどのようなものなのかを考えていきたい。