現代の消費者の意思決定に対して、企業からの一方的な広告だけではなく、他の消費者の発信(つまりクチコミ)の影響力が大きいことは言うまでもない。中国では特にその傾向が強いとされ、企業はこぞってキー・オピニオン・カスタマー(KOC)やキー・オピニオン・リーダー(KOL)のライブコマースをマーケティング戦略に組み込む。
ソーシャル・メディアの発展によって消費者が発言権を持つ時代だ。クチコミが重要なのは世界各国の市場で同じではある。この記事では、そんな中でなぜ中国市場では他国以上にクチコミが重要と言われているのか。中国人にとってのクチコミはどのような特別な意味を持つのか、ということについて考えたい。
主な参考文献は以下。
集団主義的な中国人
国民の価値観や行動特性を語る上で参考になるものとして、ホフステードの国民文化に関する有名な研究がある。彼は国民文化の特徴を、権力の格差(小/大)、集団主義対個人主義、女性らしさ対男性らしさ、および不確実性の回避(弱/強)、長期志向対短期志向、寛大さといった6つの次元に分類した。こちらのWEBサイトで様々な国の国民文化のデータを確認できるので興味のある方は試してみてほしい。
これを見ると、中国人は非常に集団主義的である(個人主義的な指標が低い)ことがわかる。つまり、集団の他のメンバーの意見や行動に影響を受けやすいと言える。こういった国民文化がクチコミに影響を受けやすいことに影響している可能性もある。
中国人の面子文化
さらに、中国人の集団主義的な行動様式に関して、中国人の「面子」文化は中国人の心理や行動を語る上で欠かせない要素だ。面子の研究は、人類学、心理学、社会心理学の分野で幅広く行われているが、消費者行動においても研究が進んでいる。
例えば李(2017)は、中国人の面子がブランドの選好に与える影響について研究した。中国人消費者によるブランドの意味づけは、プライベートなものよりもパブリックな価値のほうが大きいとされる。面子は自己評価と自ら知覚する他人の評価であり、他人の評価に対する推測を容易にするには、知名度が高く、贅沢さや高級感の溢れるブランドが功を奏するとした。
つまり、集団の中で中国人は自分の購買意思決定が「集団内の他人にどう思われるか」ということが非常に重要なのだ。こういった面子文化が「他人から評判の良いものを購入しておきたい」という心理につながっているとも考えられる。
アメリカ人と中国人のクチコミ特性
アメリカ人と中国人のクチコミ特性の違いについて研究した論文が存在する。
Su-Chuan and Sejung (2011)は、ソーシャルメディア上のeクチコミ行動について、アメリカ人と中国人の違いを研究し、個人主義の傾向の強いアメリカ人ユーザーに対し、集団主義の傾向に強い中国人ユーザーの方が、ソーシャルメディア上での情報探索行動、情報発信行動、情報伝達行動がより活発であることを明らかにした。
また、同研究では、アメリカ人ユーザーよりも中国人ユーザーの方が、ソーシャルメディア上でのユーザー同士の繋がりが強く、ソーシャルメディア上の情報をより信頼し、よりその情報に対して影響を受けやすいということを指摘した。
まとめ
この記事では、既存の研究から、中国人にとってのクチコミの重要性について整理した。集団主義的であり、面子文化を重んじる中国人にとって、他国民よりもやはりクチコミが特別な意味を持つ可能性は高いと言える。