しがないマーケターの戯言

読んで学んで、物を書/描く。

効果的な勉強方法のための学習心理学

学習心理学

英語や中国語の語学学習、受験勉強や資格試験の勉強。巷では様々な分野で「効果的/効率的な勉強法」というのが語られている。それらの効果的/効率的な学習方法について、この記事では心理学の面から考えたい。

「学習心理学」という分野をご存知だろうか。これは心理学の一つの分野であり、教育学でも重視されている分野だ。

巷で語られている学習法のほとんどは、学習心理学でほぼ説明がつく、と僕は思っている。ご自身の学習に役立てるためにぜひご参考いただきたい。

この記事で主に参考にしたのは以下の書籍。

学習心理学

 

記憶の仕組み

まずは記憶の仕組みについて理解しよう。人間の脳には3つの記憶の貯蔵庫があると言われている。感覚貯蔵庫、短期貯蔵庫、長期貯蔵庫だ。

感覚貯蔵庫に入った情報はおよそ1秒で消失し、短期貯蔵庫では約15秒で消失する。感覚貯蔵庫と短期貯蔵庫の容量は大きいが消失までの時間が短く、長期貯蔵庫の情報の保有時間は長いが、容量は小さい。

短期記憶と長期記憶という区分は誰もが一度は聞いたことがあるのではないだろうか。一般的に「学習」と呼ばれる行動は、この短期記憶から長期記憶へ移動させることを目的としている。では、学習したことを長期記憶に移動させるにはどのような方法が効果的なのだろうか。この記事を読んでいる誰もが知りたいことのはずである。

3つの練習法

アメリカの認知心理学者ヘンリー・ローディガーらの「使える脳の鍛え方」では、以下の3つの練習方法が、短期記憶から長期記憶へ移動させるためには効果的だとされている。

使える脳の鍛え方

①想起練習

テキストの再読ではなく、記憶から知識や技術を思い出す「想起練習」を学習の中心に置くこと。

フラッシュカードなどの地味で面白みのない勉強方法は実は効果が高い。ただの再読によってテキストに慣れると、理解しているという錯覚を起こす。自分でクイズをすることなども効果的。

よく語学学習はアウトプットが重要だと言われる。英会話レッスンなどを通してアウトプットすることは、覚えているはずの言葉や文法を思い出して使ってみることなので、この想起練習の良い一例だと言えるだろう。

②間隔練習

同じ教材を一定時間をあけて複数回学ぶ「間隔練習」を行うこと。

たくさん練習することも、間隔を空けなければ意味がない。思い出す努力をすることが長期記憶となることを助ける。

つまり、一夜漬けのような勉強方法はやはり効果が薄いのだ。ある程度時間をかけて、忘れかけた頃にもう一度学ぶ、という方法の方が効果が高い。

③交互練習

様々な種類の問題を混ぜる「交互練習」をすること。

数式を学ぶなら、一度に2種類以上を勉強し、解放の違う問題を代わる代わる解く。語学学習なら、様々な文法課題を解いたり、ランダムな質問に答えたりする練習をする。交互練習によって、種類を見分け、その種類に共通する特徴に気づく能力が養われる。

 

意味記憶とエピソード記憶

次に長期記憶の保存を助ける記憶区分を紹介したい。

学習心理学では、長期記憶として貯蔵される情報の質をいくつかに区分している。学習において知っておくべき1つの記憶区分は「意味記憶」だ。

例えば、「消防車」「トラック」「バス」といったものは、「乗り物」という共通の概念に紐づいて記憶として保存されている。つまり、記憶は意味の関連やつながりを持つことで保持が強化される。よく英語の単語は、単語それだけではなく、関連語や文脈の中で覚えたほうが良いと言われるのはこのためだ。

もう一つの記憶区分は「エピソード記憶」。言葉の意味だけではなく、人は個人的な体験と紐づけることで記憶を強化することができる。

例えば、歴史的な場所や建物を、実際に訪れて見ることは、ただ教科書で読むことよりも、記憶に残りやすい。教師が生徒に対して印象的で面白い伝え方をすれば、授業の様子と一緒に重要なことが記憶されることもあるだろう。重要な公式を語呂合わせで覚えた経験があるかもしれない。これも面白い文章やリズムを口に出すことで記憶が強化される良い例だろう。

語学学習者には経験があるかもしれないが、伝えようとして言えなかった苦い経験は、その経験と一緒にその時言えなかった言葉を記憶させたりもする。これもエピソード記憶の一つと言える。

 

学習の仕組み

効果的な学習にはメタ認知フィードバックが重要な役割を果たす。

例えば、子どもが母親と一緒に料理を学んでいるシーンを想像してみよう。料理の方法を言葉で聞いただけで、完璧に料理ができるようになる子どもはまずいない。野菜を包丁で切りながら、「包丁はこう持って、野菜はこのように押さえた方が良いよ」「もう少し強く握ったほうが良いね」「野菜はもっと細かく切ろうね」などとフィードバックを受けることで、自分の行動を客観的に認識し、修正を加える。これがメタ認知をするということだ。

インターネット上に学習コンテンツが氾濫する現代、自学自習の方法は掃いて捨てるほどある。にもかかわらず、人と会話する英会話や、コーチングサービスなどが人気なのは、人の学習に、フィードバックとメタ認知が欠かせないからである。

 

モチベーションの仕組み

最後にモチベーションの仕組みについて確認しよう。人が学習する理由は大きく3つに分けられる。

①内発的な学習理由:興味・関心があるから、学ぶことが面白いから、学習内容を理解できると嬉しいから、など。

②自己実現のための学習理由:志望する仕事につきたいから、自分の将来に役立つから、人や社会のために役立ちたいから、充実した将来のために必要だから、など。

③他律的な学習理由:まわりの人から「やりなさい」と言われるから、しないと先生や親がうるさいから、恥をかきたくないから、友だちにバカにされたくないから、など。

一般的には内発的な学習理由による動機が最も強いとされる。周りの環境に左右されず、自らの知的好奇心に駆り立てられ学ぶ人はやはり強いのだ。

なので、学習のプロセス自体が面白いと思えるようにすることは非常に重要だろう。英語・中国語学習でも、海外ドラマやYouTubeを楽しんだり、友達を作ったりすることを薦める人もいるが、それは学習プロセス自体を面白くすることで、内発的動機を長くキープするためだ。

一方で、他律的な学習理由というのも実はバカにはできない。「親にやれと言われたからやる」というのは動機づけとしても弱いかもしれないが、他にも「英語(や中国語)が話せなくて会議で恥をかいた」という体験は、時に猛烈なモチベーションになり得るし、自分のモチベーションを保つためにそういった環境に飛び込むという手段もかなり有効だと思う。

自分の場合も、仕事で英語や中国語を使う環境や、海外の大学院のプログラムで英語を使う環境に飛び込んだが、本当に語学力を飛躍させてくれたと思う。これは紛れもなく他律的な学習理由だ。

 

以上、学習心理学に関する代表的な理論をまとめた。語学学習、受験勉強、資格取得のためにぜひ参考にして頂きたい。