しがないマーケターの戯言

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私域流量(プライベート・トラフィック)とは|中国マーケティング

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プライベート・トラフィック・マーケティング

「私域流量(プライベート・トラフィック)」は今の中国マーケティング業界でひとつの注目トピックだ。僕もこの言葉について、つい最近までよく知らなかったのだが、自分が今担当している仕事は、まさにこのプライベート・トラフィック・マーケティングの領域だと思い、一度整理することにした。この記事では、iResearch「2021年中国私域流量营销洞察研究报告」を一部参考にしている。この調査によると、21年、中国企業の間でプライベート・トラフィック・マーケティングは“試してみるもの”ではなく“必ず選択しないといけないもの”になったという。

私域流量(プライベート・トラフィック)とは何か

私域流量(プライベート・トラフィック)マーケティングというのは、有料広告でのプロモーションや、大手ECサイトでの販売ではなく、SEO等の自然流入を活かして自社WEBサイトや自社アプリなどのプラットフォーム(私域)に顧客を呼び込み、クロージングするマーケティング領域のことだ。反対にパッブリック・トラフィック(公域流量)はSNSやECサイト、WEB広告といった社外プラットフォームのトラフィックのこと。

なぜ中国で今注目されているのか

なぜプライベート・トラフィックが今中国の企業から注目されているのか。1つはオンライン上でのマーケティングの競争激化によってTmallをはじめとした大手ECプラットフォームでの販売がコスト面で高くなり、費用投資の効率が悪化していること。2つめは、WeChat生態やライブ・コマースといった中国市場独自のWEBマーケティングの発達にある。

中国独自のWEBマーケティングの発達

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ご存知の方が多いと思うが、中国はインターネットの制限のため、使われているアプリやプラットフォームが、その他の国とは大きく異なる。「GoogleやLINEのパクリだよね」と言われることもあるが、実際は中国のインターネット業界は凄まじく発展しており、それらを凌駕する機能を備えているプラットフォームばかりだ。

使われているプラットフォームが異なるだけではなく、マーケティング手法も独自に発展している。例えば、KOL(キー・オピニオン・リーダー)によるライブ・コマースでの販売手法などは、日本では考えられないくらいにユーザーの間で一般化している。

その中で、最もこのプライベート・トラフィック・マーケティングに関係の深いのがWeChat生態系の発展だ。WeChatという巨大アプリは、日本のLINE以上に現代の中国人の間でインフラ化している。メッセージのやりとりだけではなく、あらゆるシーンでの支払い機能、レストランや美術館、イベント等の予約機能、ニュースや生活に関する情報収集機能。

さらに企業が顧客をマネジメントするシステムまでも搭載した企業WeChatというものも出てきたことで、ビジネス利用も進んでおり、今や企業側にとっても、WeChatはマーケティングツールとして切り離せない状態になっている。

中国独特なWeChatのマーケティング利用

企業側がWeChatをマーケティングツールとして利用する上で独特な方法がある。それは、接点を持った消費者をWeChatグループに呼び込み、そこで直接コミュニケーションを図ることだ。こういった手法をDTC(Direct to Customer)と呼ぶこともある。ちょうどLINEのグループに消費者を呼び込むことをイメージしてもらえると良いと思う。

見知らぬユーザー同士が一つのグループに入ってメッセージを交わすことになるので、個人情報に敏感な日本人の中には抵抗を感じる人も多いかもしれない。しかし、中国ではこの形は違和感なく市場に受け入れられているように思う。

このように、店舗での接客やオンライン上での自然流入から、消費者をグループに引き込み直接見込み顧客とのコミュニケーションを図る手法が発展したことが、今中国でプライベート・ドメイン・マーケティングが注目されている大きな要因となっているのである。

キーとなるのはWeChat生態系

中国市場での私域流量マーケティングのキーとなるのはWeChat生態系をいかにマネジメントするか、だと思う。Googleの中国版は「百度(バイドゥ)」だと一般的には言われるが、実際、百度検索で検索をするユーザーはどんどんと減っている。それよりも、小红书(インスタグラムのようなアプリ)や大众点评(ぐるなびのようなアプリ)そしてWeChat内での検索を通して情報収集をするユーザーが多くなっている。

だからこそ、WeChat内でのSEOやクチコミ(UGC)に力を入れることが、このプライベート・トラフィック・マーケティングでは重要だと思う。ただ、それは特別なことではないはずだ。カスタマージャーニーを描いていくと、行き着く結論は

1. 自社アカウントをブランドワードで見つけられやすい設計にする

2. 一般ワードで検索/シェアされやすいコンテンツを提供する

3. 検索ニーズを盛り上げるためのクチコミ(UGC)を醸成する

をコツコツとやっていくことだ。日本でのマーケティングで企業側が重視していることと、根本は大きく変わらない。プラットフォームが違えど、消費者行動心理は大きくは異ならないと思うのだ。