ビービット・藤井保文氏、IT批評家・梶原和啓氏の「アフターデジタル」を読んだ。
2019年現在、中国のモバイルテクノロジーは凄まじい発展を遂げており、オンライン決済サービス、Eコマース、各種シェアリングサービス(タクシー配送や食事の宅配など)が乱立している。
実際に私はこの記事を書いている2019年10月現在、中国の上海に住んで駐在員として働き、生活しているが、モバイルサービスは正直日本よりはるかに発展してしまっている。
この中国市場の先進的なビジネスの本質を分析し、まとめたのがこの「アフターデジタル」だと言える。グーグル等の世界標準のWebサービスをグレートファイアーウォールによって閉ざしてしまった中国市場は独自の発展を遂げている部分もある。
しかし、これからは「中国で発展したビジネスが日本に輸入される」「日本は中国の真似をしてビジネスを起こす」という時代になっていく。これまで、アメリカで発展したビジネスを他国がこぞって真似してきたように。そう考えると、どのようなビジネスに携わる人にとっても一読する価値のある1冊だと思う。
「アフターデジタル」とは何か
まず、聞き慣れない「アフターデジタル」とは何か。本書では以下のように定義されている。
モバイルやIoT、センサーが偏在し、現実世界でもオフラインがなくなるような状況になると、「リアル世界がデジタル世界に包含される」という図式に再編成されます。こいうした現象の捉え方を、私たちは「アフターデジタル」と呼んでいます。
中国では、WeChatやAlipayのアプリによって、支払いがほぼすべてオンライン決済化されている。もはや日本との比にならないほどだ。中国で生活する人のほとんどが、「財布を取り出す」という行為をほとんどすることがなくなっている。小さな路面店のようなところはもちろん、場合によっては駅などの物乞いの人たちですら、モバイルで少額のお金を受けとるのだ。
オンライン決済が極限まで普及するとどうなるかというと、顧客がどこで何を買ったか、何を食べたかということをすべて行動データとなって把握することができる。タクシーアプリを使えば、誰がどこにいてどこに移動しているのかということもわかるのだ。
そうすると、企業からのマーケティングは「オフラインとオンライン」という2軸ではなくなり、それらが融合した形で考える必要が出てくる。その状態を、「リアル世界がデジタル世界に包含される=アフターデジタル」と定義されているのだ。
アフターデジタルの本質は何か
本書で語られているアフターデジタルの本質は、以下の記述に集約されている。
アフターデジタル時代のビジネス原理は、次の2つにまとめることができます。(1)高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループをまわすこと。(2)ターゲットだけでなく、最適なタイミングで、最適なコンテツを、最適なコミュニケーション形態で提供すること。
1点目の「高頻度接点による行動データ」は、前述した購買履歴データの蓄積について。そして「エクスペリエンス品質のループをまわすこと」については、例えば中国には滴滴(DiDi)というタクシーの配車サービス(Uberのようなもの)がある。このサービスでは、ユーザー(乗客)と運転手が相互に評価をし合い、運転手が良いサービスを提供すればするほど、高額な運賃を設定できるなど、有利にサービスを提供することができるようになる。
「エクスペリエンス品質のループをまわすこと」というのは、そういったサービスの品質や顧客体験の質を向上させる「正の連鎖」生むインセンティブ設計の重要性を指している。
2点目の「最適なタイミング、コンテンツ、コミュニケーション形態で提供する」について。例えば消費者が1本の水を購入したいと思った時、近くに自動販売機やコンビニがあればそこで買うし、無ければオンラインショップで買う。
往々にして日本の企業はオンラインとオフラインを別に考え、あたかも2つの世界が存在するように考えがちだが、「オンラインで買いたいかオフラインで買いたいか」ということを顧客は考えておらず、最も便利な方法で買いたいだけ。なのでビジネスサイドはそのための様々な方法を提供するべき、という考え方だ。
日本企業の強みは何か
ここまで書くと、中国企業のサービスがすべて優れていて日本企業は勝てないと言いたいのか、と思われてしまうかもしれないが、本書の後半には面白い観点が紹介されていた。
筆者が中国のあるグローバル企業の幹部に「日本のすごいところは何だと思うか」と質問したところ、その一つに「日本人や日本企業には独特の"温かさ"みたいなものがある」ということを挙げたという。
これを読んだ時、「温かさ」とはずいぶん曖昧で漠然としたことを言いだしたなあと、正直感じた。しかし、よく考えると確かに思い当たるところもある。
例えば、僕の職場のある中国人の同僚は、「メイソウ(日本のダイソーと無印良品に似た中国発の生活雑貨ブランド)は、日本企業っぽさを出そうとしているけど、無印良品の商品の良さやデザイン性には到底敵わない。雰囲気が何か違う」と話していた。これも、日本企業の商品やサービスが独特の温かさというものを持っている事例かもしれない。
また、身近な例でいうと、日本へ一時帰国した際、僕の地元・岡山の駅でこんなブランドを見つけた。
地元の岡山駅でお土産買おうと思って立ち寄った新しいお店がすごく良い。Little Okayamaというコンセプトで小分けで可愛いパッケージでコーヒーやお菓子を提供してて、岡山のお土産なんて昔から買い飽きた自分でも欲しくなって即買い。
— Taisuke (@iro_iro_manabu) September 30, 2019
こういうマーケティングしたいんだよなああああ pic.twitter.com/N6ed9tRQ4t
僕は昔から岡山のお土産なんて買い飽きていて、買うものを探すのが大変だし、上記の商品は特別素晴らしいスペックがあるわけではないのだが、
・岡山のお土産であることがわかるコンセプト(桃太郎や方言)
・今風のシンプルで可愛いデザイン
・小分けにしてお土産として買いやすいパッケージ設計
などの工夫によって新しい価値を生み出している良い事例だと思う。中国の最先端都市の一つである上海で生活していても、こういった温かみを感じる商品はお目にかかれないように感じるのだ。
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以上、中国の最新ITビジネスの本質を分析した「アフターデジタル」についてまとめた。これから我々日本のビジネスパーソンは、「中国は発展途上国だ」などという古い考え方のおじさんは放っておいて、中国ビジネスから積極的み学んでいくべきだと思うのだ。もちろん、日本企業のサービスが持つ良さは大切にしつつ。
また、最後に中国ビジネスをマクロ視点で見るには、以下の「チャイナ・イノベーション」もかなりおすすめなので紹介しておきたい。