しがないマーケターの戯言

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中国ビジネス必須ワード“种草”とは|中国マーケティング

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中国のビジネスに関わる方にとって“种草(ジョンツァオ)”という言葉はすでに馴染みあるものになったのではないだろうか。それほど、今の中国市場でのビジネスを語る上でこの言葉は必須ワードとなりつつある。この記事では、この“种草”の意味を改めて整理し、今中国の企業がどのようなことを重視しているのかを整理したい。

*この記事は中国の調査会社iResearch「2021年种草内容平台营销价值白皮书」を参考にしています。

“种草”とは何か

まず、“种草”とは何だろうか。直訳すると“草を植える”という意味にすぎないが、ビジネス上での意味は日本語に直接訳すのが難しい。iResearchの記事では、「“种草”はブランドや商品の情報における、消費者心理に影響を与えるプロセスのことであり、コンテンツ・プラットフォームには元々この能力が備わっている」とされている(筆者訳)。

つまり、SNS上でのクチコミや、広告も含めたセールスコミュニケーションを通して、消費者の心理に影響を与えること、それが“种草”と言える。

僕の理解では、この言葉は消費者が商品を知り、購入するまでの検討プロセスが段階を追って進んでいくことを前提にマーケティング活動をすることの重要性を表している。つまり、消費者の購買活動は、1つの広告、1つのWebページだけで完結するこのではなく、多くの媒体や口コミによって購入意向が次第に醸成されていくということだ。

代表的な中国の“种草”プラットフォーム

次に、中国で重要な“种草”の手段とされているプラットフォームを紹介したい。

抖音(TikTok):日本ではTikTokといえば、10代の若者がダンスをしているSNSといった印象かもしれないが、中国では大人も含めた比較的広い世代が使う“ショートムービー”のプラットフォームだ。内容は娯楽系が中心だが、中国では投稿されるコンテンツが、役立ち情報やスキル解説系など非常に幅広いテーマに及ぶ。

快手(カイショウ):TikTokと並ぶメジャーなショートムービーアプリ。内容もTikTokにかなり近いが、実はTikTokが生まれるより前に広まったショートムービーの先駆け的アプリ。生活やプライベートの記録系の内容が多く、特に中国北部エリアのユーザーが多いとされている。

小紅書(RED):中国版インスタとも呼ばれるREDは、ショートムービーだけではなく文章の投稿も多いSNS。若い女性に人気が高いとされている。消費者同士のクチコミの要素が強く、レストランを選ぶ際や旅行先を選ぶ際など、クチコミ検索をするために活用されるケースも多い。

知乎(チーフー):様々な分野の専門家が多く活躍する質問プラットフォーム。日本で言うと、Yahoo!知恵袋の高級版という感じだろうか。分野は学習、医療、キャリアなど幅広い分野に及ぶ。

bilibili(ビリビリ):比較的長めの動画を投稿できるビリビリは、YouTubeに似たプラットフォーム。消費者自身が投稿する動画もあれば、アニメやドラマなども多く視聴できるので、中国の若者の必須ツールとなっている。

日本の消費者とどう違うか

では、日本のインターネット上での消費者行動と、中国のそれはどのように異なるのだろうか。日本では、Googleでの検索がユーザーの情報探索行動のベースとなっている。気になる商品があるとき、クチコミを確かめたいとき、今やほとんどの人がGoogle検索を入り口として情報を探し始める。なので、企業側からすると、このGoogleの世界でいかにユーザーの目に触れる確率を高めるか、ということが非常に重要であり、そのため企業サイトやブログサイトのSEOが非常に重要となっている。いわば、Googleの一強といっても良い。

一方で、若い世代に多くなってきているのが、Googleの代わりに、InstagramやYoutube等のプラットフォームで口コミ情報を検索するユーザーだ。多くの企業がInstagramでも公式アカウントを持っている上に、他のユーザーの口コミをダイレクトに検索できるためだ。

中国では、この「SNSで検索する」という消費者行動が極端に発展していると考えてもらえるとわかりやすい。中国のGoogleと言われる百度(バイドゥ)が検索プラットフォームとしては有名ではあるが、より信頼できる口コミ情報を求める中国のユーザーたちは、次第に百度で検索することが少なくなり、上記でご紹介した各SNSプラットフォームで検索するケースが増えた。特に、小紅書(RED)は、レストラン、旅行先に加え、多くの商品の口コミが簡単に見つけられるため、重要な検索プラットフォームとなっている。したがって、中国におけるマーケティングでは、日本のそれ以上に、SNSプラットフォームでどのように存在感を出し、良い口コミ(UGC)を増やせるか、ということが重要なのである。

今中国の企業が重視していること

iResearchの調査によると、中国の企業は平均してマーケティング予算の57%を种草のプラットフォームに投資している。そして、各プラットフォームから、公式アプリ(Wechat内のミニアプリ含む)やWechatのグループといった自社トラフィック(中国では”私域“と呼ばれる)にユーザーをいかに引き込むか、ということに各企業はこぞって力を注いでいる。

また、种草の戦略が企業に持続的な収益をもたらすためには、1.社内に専門のチームを作ること 2.良質なコンテンツ制作にリソースを割くこと 3.KPIを定量化することが必要とも言われている。

今年2021年の独身の日セール(ダブルイレブン)は、例年よりもキャンペーン期間が長期化し、この种草がさらに重要になった。11/11を迎える数週間前から、ユーザーの購入意欲を刺激し、商品理解へのニーズを満たし、コンバージョンの効率を上げる必要があったからだ。

 

以上、中国のマーケティングにおける最重要キーワードの一つ、「种草」についてご紹介した。