この記事では、マーケティングの神様、フィリップ・コトラー教授の「マーケティング3.0」と「マーケティング4.0」を読んで、そのエッセンスを整理したい。
マーケティング1.0から4.0への変遷
結論から言うと、マーケティング3.0とは、ミッションやビジョン、価値が主導するマーケティング。マーケティング4.0とはオンラインとオフラインが融合した世界のマーケティング理論だ。それ以前の、良い製品を作ることが中心だったマーケティング1.0と、顧客のニーズを満たすことが追求されたマーケティング2.0とは区別される。
マーケティング3.0のポイント
では、価値主導のマーケティング3.0とはどのようなものだろうか。コトラーは以下のような言葉で説明している。
マーケティング3.0を実行している企業は、より大きなミッションやビジョンや価値をもち、世界に貢献することをめざしている。社会の問題に対するソリューションを提供しようとしているのである。マーケティング3.0は、マーケティングのコンセプトを人間の志や精神の領域に押し上げる。
消費者に企業や製品のミッションをマーケティングするためには、企業は変化というミッションを掲げ、それを軸に感動的なストーリーを築き、ミッションの達成に消費者を参加させる必要がある。優れたミッションの策定は、大きな違いをもたらし得る小さなアイデアを見つけることから始まる。ミッションが先にくるのであり、金銭的見返りは結果としてついてくるものであることを忘れてはならない。
つまり、企業は、大きなミッションやビジョンや価値をもち、世界に貢献することで、「力を持つようになった消費者」「社員やチャネル・パートナー」から支持されるようになることで成長する。さらに、社会的・環境的文脈でも、健全な活動であることでコストを低下させることができるということだ。
マーケティング4.0のポイント
マーケティング4.0については、コトラーはこのように説明している。
かつての顧客はマーケティング・キャンペーンに影響されやすかった。また、権威者や専門家の助言を求め、それに耳を傾けた。だが、さまざまな産業にまたがる最近の調査によると、マーケティング・コミュニケーションよりもFファクター(friends 友達、families 家族、Facebook fans フェイスブックのファン、Twitter followers ツイッターのフォロワー)が信頼されるという。ほとんどの顧客がソーシャル・メディア上で見知らぬ人たちにアドバイスを求め、広告や専門家の意見よりそれを信用するのである。
結論から言うと、オンラインの世界とオフラインの世界は、ゆくゆくは共存し融合するだろう。技術はオンラインの世界にもオフラインの物理的空間にも影響を及ぼし、オンラインとオフラインの究極の融合を可能にする。近距離無線通信(NFC)や位置情報にもとづくiBeaconなどのセンサー技術はこれまでよりはるかに魅力的な顧客経験を提供する。
誰もがモバイルデバイスを持ち、ソーシャル・メディア上で顧客同士がつながり、実際の商品やサービスがインターネットと接続されるようになった今の世界では、顧客の行動がこれまでとは大きく変わってくる。
そこで、コトラーは新時代の顧客の行動モデルを、「5A」という新たなカスタマージャーニーで整理した。認知(aware)、訴求(appeal)、調査(ask)、行動(act)、推奨(advocate)である。
ポイントは、オンラインとオフライン両方で顧客は商品やサービスをよく「調査」し、購入した顧客は満足すると次に「推薦」を行うことで、さらに新たな顧客を生むということ。
さらにこのカスタマージャーニーを効果的に管理するために、企業は以下の指標を管理すべきだと提案している。
5Aに沿って考えると、測定する価値があるのは二つの指標、つまり購買行動率(PAR)とブランド推奨率(BAR)だ。PARは企業がブランド認知をブランド購買に「コンバート」することにどれくらい成功しているかを示し、BARは企業がブランド認知をブランド推奨に「コンバート」することにどれくらい成功しているかを示している。要するに、認知(A1)から行動(A4)へ、そして最終的に推奨(A5)へと進む顧客の割合を調べるわけだ。
1. 購買行動率(PAR)= 購買行動をとる人の数 / 認知している人の数
2. ブランド推奨率(BAR)= 自発的に推奨する人の数 / 認知している人の数
マーケターの実務にどのように関わるか
カスタマージャーニーを作るマーケターは多いと思うが、KPIとしてその全体を実際に管理できている企業はどれほどあるだろうか。そういった意味では、多くのマーケターはコトラーのこの提案から学ぶことが多いはずだ。公式をそのまま使わないとしても、自社の事業構造や自分の責任範囲に合わせて応用できるかもしれない。
また、3.0と4.0両者が提案するマーケティング理論は、一つの企業内では少し位置付けが異なると思う。3.0は企業のミッションやビジョンに関わるので、経営者や事業部長といった上層部の働きに関する部分が多い。一方4.0は顧客行動に深く着目している点で、現場レベルの担当者まで多いに関係する内容だと言える。
中国のビジネスに見るマーケティング4.0
僕は2021年現在、中国の上海でマーケティング担当者として働いているが、中国ではIT、特にモバイル・テクノロジーが凄まじいスピードで発達している。スマホのオンラインサービスは、オフラインのリアルなサービスと融合され、新しい価値を生み出している。
この中国市場のITビジネスを考察した名著「アフター・デジタル」では、このように表現されている。
モバイルやIoT 、センサーが偏在し、現実世界でもオフラインがなくなるような状況になると、「リアル世界がデジタル世界に包含される」という図式に再構成されます。こうした現象の捉え方を、私たちは「アフターデジタル」と読んでいます。
「リアル世界がデジタル世界に包含される」これはまさにコトラーの言う「オンラインの世界とオフラインの世界の融合」と同義だと思う。「アフターデジタル」の出版が2019年で、「マーケティング4.0」は2016年なので、かなり早期にコトラーはこの世界を見ていたことになる。さすがマーケティングの神様だ。
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以上、コトラーのマーケティング3.0と4.0のエッセンスを自分なりに整理した。世の中のマーケターは、一度は読んでおくべき現代の教科書だと思う。ちなみに英語が得意な方は原著もどうぞ。