上海に来て1年が経った。初めての海外生活、初めての海外勤務。
学ぶものは多く、少なからず失ったものもあった。1年をひとつの区切りとして一度整理したい。海外勤務を控えている方、志望している方の参考になれば嬉しい。
上海に来た理由
僕は、10年ほど勤めている日本企業のマーケティングを担当している。ちょうど1年前に上海に駐在員として来て、同じくマーケティング担当者として働いている。
上海へは、自分の意思で、自ら手を上げて来た。元々僕は25歳まで海外旅行にさえ行ったことのなかった超ドメスティック人間なのだけど、30手前くらいから自分のキャリアや将来を考える中で、海外で働いてみたい、外の世界を見て生きたいという漠然とした思いが出てきた。
そして、語学を勉強することも、新しい仕事に挑戦することも好きだったので、自分の頑張りたいベクトルと、会社が求めるベクトルが揃っているように思えた。当時の上司など、色々な縁が重なって、上海に来るチャンスを頂いた。
上海で得たもの
最低限のビジネス中国語力
僕の同僚は、ほぼすべて中国人で日本語は話せない。上司の上司は日本人だが、直接の上司は中国人になる。社内の会議や電話もメールも基本はすべて中国語だ。元々僕は中国語は全く喋れなかったので、最初の頃は、もはやコミュニケーションが恐怖でしかなかった。
だから必死に勉強したのもあり、今では最低限仕事を進められる程度のビジネス中国語は身についたと思う。中国語の検定であるHSKは来て3ヶ月で5級をとった。6級は来て半年のころに受けて落ちてしまい、それ以降はコロナで受験できていない。
「ビジネス中国語」というと凄そうにも聞こえるが、逆に生活面では大して中国語レベルは高くない。レストランなどで、メニューが読めずに「これこれ」と指差しでオーダーすることもよくあるし、中国人しかいない美容室に行った時は自分の意思が全然伝えられなかった。
一方仕事は、業界用語や社内用語など特殊な言葉も多く、そういった言葉は毎日使うので慣れたというのが大きい。
道無き道を進む力
これは会社によって大きく違うことだと思うが、自分の会社で駐在員に求められることは、決まった業務を管理することではない。特にマーケティングや営業系の部署の駐在員は、事業をさらに成長させるために、新しいプロジェクトをどんどんとアサインされる。求められることは大きい。
だから、決まったやり方というのが存在せず、もちろんOJT的な指導があるわけでもない。自分で考えて手探りで進めないといけないことが山のようにある。これは辛いことも多いが、本当に良い経験をさせてもらっていると思う。まさに道なき道を進む力を鍛えられている。
初マネジメント経験
世の中の多くの駐在員は、日本で一定のマネジメント経験を積んで、海外へも管理職として派遣されることが多いと思う。一方僕は日本でプロジェクトリーダーとしての経験はあるものの、正式な管理職としての経験は無かった。
駐在員として派遣されるからには、マネージャーとしての役割が求められる。正直、日本人もマネジメントしたことがないのに、いきなり中国人のマネジメント、と考えると腰が引ける部分もあるのだが、これは自分のキャリアにとってはとても重要な経験だと思う。
中国プラットフォームの知識
マーケティング担当者として、中国市場の理解が難しい理由の一つに、使われているプラットフォームが日本や他国と全く異なるという点がある。GoogleやTwitter、Facebookなどは中国では使えない。
その代わり、WechatやTmallなど、別のプラットフォームが、世界とは異なった形で発達している。こういった中国独自の生態系の理解は、難しいがとても興味深くて、わかってくると面白い。
一定の駐在手当
他の多くの会社がそうであるように、自分の会社でも一定の駐在手当がある。有難いことに、生活面ではとても良い環境を提供してもらっている。もちろん、大手の総合商社ほどの待遇は無いと思うが。
(このあたりは会社によって状況が大きく違うと思うのと、詳しくは書けないので、個別に連絡をいただければ可能な限りお伝えします)
上海で失ったもの
英語の勉強時間
この1年は中国語の勉強を最優先したこともあり、これまで続けてきた英語の勉強時間は短くなった。毎日コツコツ英語の勉強も続け、この1年で勉強をしなかった日はない。でもやはり語学の上達には一定の勉強時間が必要だ。おそらく、英語力は落ちてはいないが大きく伸びてもいない。
中国語については、仕事の環境がすべて中国語である分、仕事の中でも上達していけると思う。その分今後は、プライベートの時間は英語の勉強の時間を少しずつ増やしていきたいと思っている。
気軽に相談できる友達
日本にいた時は、部署や会社が離れても、以前の同僚、同期、大学時代の友人など、いつでもご飯にいって話を聞いてくれる友達がすぐそこにいた。
もちろん、先輩たちも話を聞いてくれるし貴重な存在であることは間違いないが、気の知れた友達とはまた違う。僕は基本的には一人の時間が好きで、一人暮らし歴も長いので、寂しいと思うころはほとんどなかったのだが、上海に来て、特に最初の頃は、寂しいと思う気持ちが出て来たというのが正直なところだ。
くだらないプライド
僕はこの1年で、くだらないプライドをすっかり失った。いや、捨てざるを得なかった。(まあ元々、仕事上ではプライドが高いほうではなかったけど)
日本では頼りにされることも多く、少なからずあった自信や自分の存在意義も、中国語が全然理解できず、会社の仕組みも全くわからない環境に飛び込み、脆くも崩れ去った。
日本人赴任者として、良くも悪くも特別扱いをされる中、会議にもついていけず、全くチームに貢献できない状況は、メンタル的にはかなりキツい。どんな激務よりも、自分の存在意義を疑う気持ちがある時。それが一番メンタルに来る。
自分の中国語を馬鹿にされても、年下の後輩に軽く扱われても、邪魔者扱いされても、やけにはならない。やけになったり、悪態をついて同僚たちとの関係性を壊して、同僚の協力を失ってしまっては、自分は何もできないのだ。外国人として生きる、という経験をすることで、くだらないプライドを失った。
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ともあれ、上海1年生を終え、2年目に突入した。情けないことに、今でも上手く進められないことは山ほどあるし、上司に怒られることもある。でも少しでも自分がここで働いて貢献できることを増やしていきたい。次の1年も攻める気持ちを忘れずにいきたい。