事業会社でのマーケティング職をかれこれ10年以上経験した。また、MBAでマーケティングという活動について学ぶ機会にも恵まれ、客観的にマーケターという仕事を見られるようになってきていると思う。この記事では、マーケティングという職業は何なのか、キャリア上、どのようなメリットがあり、どのような適性が求められるのかということについて、自分の考えを網羅的にまとめた。
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マーケターとは
まず、そもそもマーケターとは何か、から考えたい。広告を作ることや、Webサイトを運用すること、もしは市場調査をすることをマーケティングと呼ぶ人もいる。確かにそれらの仕事はマーケティング活動の一部だが、それだけを「マーケティング」と呼ぶにはあまりにも狭義すぎると思う。
マーケティングの大家フィリップ・コトラーは、著書で以下のように述べているように、マーケティングという言葉の示す範囲はとても広いのだ。
マーケティングとはニーズに応えて利益を上げることである。マーケティング・マネジメントとはターゲット市場を選択し、優れた顧客価値を創造し、提供し、伝達することによって、顧客を獲得し、維持し、育てていく技術および科学である。(フィリップ・コトラー『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』)
マーケティングとは、顧客、商品、競合について深い知識を持ち、手段を狭く定義せずに商品やサービスを売る仕組みを考えられることだと思う。
マーケターの種類
マーケターと一言で言っても、業界や役割は千差万別だ。マーケターの種類を整理するには、業界、対象、業態、範囲という視点で見るとわかりやすい。
業界
言うまでもなく、マーケターとは「職種」であり、「業種」ではない。それぞれの業界に、そしてそれぞれの企業にマーケティング職というポジションがある。サービス業界のマーケティングと、消費財のマーケティングでは、必要な知識は大きく違うだろう。
対象
マーケティングは、顧客に対して行う活動だが、その「顧客」が何を指すのか、ということも一つの要素だ。対象が消費者(BtoC)、企業(BtoB)、企業を通して消費者に行う場合(BtoBtoC)がある。
業態
事業会社でマーケティング担当者として自社のサービスをマーケティングする立場と、広告代理店やコンサルタント会社で、クライアント企業のマーケティングを支援する立場がある。前者の特徴は、自社の特定の商品やサービスに対して売り上げ等の成果に責任を負い、社内調整等も含めて深いマーケティング活動を行うこと。後者の特徴は、様々な企業、業界のマーケティング活動の一部を支援する形で、広く浅く関わる形になることが多い。
範囲
マーケティングミックスの4P(商品・価格・販促・流通)というフレームワークで考えると、4Pのうちどの部分までを担うのか、という観点もある。例えば、デジタルマーケティングと呼ばれる仕事は、多くは商品や価格設定にまでは関わらない。一般的にはポジションが高くなればなるほど、広い範囲のマーケティング活動を俯瞰してマネジメントすることになるだろう。
将来性やキャリア形成面での特長
もちろん、マーケターの将来性はその企業やポジションによって大きく異なるので一概には言えない。ただし、マーケティング活動は、(例えば対人営業や接客業などに比べ)経営そのものに密接に関わるため、企業の組織ピラミッドの上のほうに位置することが多い。
また、マーケティングチームは、企業全体から見ると少人数精鋭制であることが多いため、他の部署で経験を積んでからステップアップとして異動になって初めてジョインできるということも多いだろう。
そういった背景から、マーケターという職種に一度就くことは、キャリアップしやすく、給与も高い傾向がある。
マーケターのやりがい
市場を動かす、人に影響を与える感
マーケティングとは、顧客に何らかの行動を促すためのものであるので、自分が担当した企画で多くの人が自社商品を買ってくれ、SNS等でコメントをくれることは、自分が市場を動かしたり人に影響を与えたりしているという自己効力感のようなものはある。それは一つ、マーケターのやりがいと言える。
WEBサイトや広告物など、モノがあること
マーケターは仕事の中で広告物や商品パッケージの制作に関わることも多い。自分が考えたものが、クリエイターの手によって形になって多くの人の目に触れるというのは、成果物がわかりやすく、嬉しいものだ。
オフィスワーク中心の働き方
もちろん、市場調査やインタビュー等で活動的に動くこともあるかもしれないが、営業職などに比べるとオフィス勤務の時間が圧倒的に長い。これは、移動時間が短いので生産的な働き方ができるという側面もあれば、オフィス内で缶詰状態で長時間働くことになるというネガティブな側面もある。これは好みが別れると思う。
マーケターの苦しみ
責任は重い
特に事業会社のマーケターは、集客数やそれにともなう売り上げなどに明確に責任を負う。自分の企画が直接的に業績に関わることから、社内からの注目も高く、上からのプレッシャーも強いだろう。人によってはこれはかなりストレスフルになり得ると思う。
人に役立っている感が低い
やりがいとして「市場を動かしている感」というものを挙げたが、逆に、顧客から直接感謝されることは少ない(というか、ない?)。社内からは業績数値で評価はされるものの、直接的に人に役立つ仕事である感覚は薄いと感じる。
社内調整に追われる
マーケターは責任範囲が広くなると、商品開発チーム、経営層、社外パートナーなど様々なステークホルダーに囲まれながら、プロジェクトをリーディングしていくことになる。その結果、部署間の意見調整など、非生産的なことに追われることも多い。このあたりをスムーズに進められるマーケターは組織で重宝される。
業界によってはグローバルでない
マーケットとは、言うまでもなく「市場」のことだ。マーケターはその市場について知り尽くしている必要がある。この性質のために、日本人にとってはキャリアをグローバルに広げることが難しくなる場合もある。日本人は、日本人の顧客心理や文化などの日本市場には精通するものだが、言語も文化も違う海外マーケットを深く理解するのには時間がかかる。日本人が国外でマーケティングを行う意味が見出しづらいという点はある。
マーケターに向いている人の特長
つきつめて考えることができる
マーケティングはアイデアや発想力こそ重要だと思われる方もいるかもしれないが、多くの企業にとってマーケティング活動とは、業績目標にいかにたどり着くかの泥臭い戦いである。顧客の行動やインサイトを深く考えて、それを戦略や企画に練り上げていき、マネジメント層にプレゼンし、決裁を得る。表面だけの浅はかなものでは仕事は進まないし業績目標につながらないので、つきつめて考えることができる(それが苦にならない)ことは重要な適性だと思う。
数字を扱うことが好きである
企画をつきつめて考え、練り上げるには、どうしても大量のデータ分析が必要になる。一般的な企業のマーケティグでは、高度な数学や統計学の知識は必要ないことが多いはずだが、「数字を見るのが嫌い」という人には相当厳しい職業だと思う。マーケターにとって、数字を扱うことが苦ではない、ということは重要だ。
右脳と左脳のバランスが良い
一方で、数値やロジックだけ追いかければ良いかというとそうでもない。人は感情で意思決定をするものだし、広告物などのクリエイティブに関わる機会も多い。左脳(ロジカルシンキング)と同時に、右脳(クリエイティブ、デザイン思考)も必要だ。どちらかがずば抜けていなかったとしてもその両方のバランスが良いことは必要かもしれない。
どうすればなれるか
新卒にとって
一定の規模の会社であれば、新卒の社員が、最初にマーケティング担当になれる可能性は低いのが一般的だ。前述したように、そもそもマーケティングチームは少人数であることが多く、上層部にも近い立場であるためだ。もし、どうしても新卒で最初からマーケティングに関わりたい場合は、以下のような方法があると思う。
・広告代理店の営業職などで入社する
・マーケティングに強いコンサルタント企業に入る
・マーケターが多い企業に入る
・組織の規模が小さい企業に入る
僕自身は、マーケターがそもそも大量にいる事業会社に入ったので、運良く社会人1年目からマーケティング担当者としてキャリアをスタートできた。当時はあまり深く考えていなかったが、わりと珍しいケースだと思う。
転職者にとって
営業職等からマーケティング職へのキャリアチェンジを求める方も多いと聞く。マーケティング職に転職する上で、自分のキャリアや経験を説明する時に、「仕組みで問題を解決した経験」をしっかりと主張することが重要だと思う。特に、営業職で、組織や顧客との関係性の構築によって成果を出してきた場合、その成功要因を「誠実さ」「頑張り」「熱意」などに求めてしまうのはマーケティング職を希望する上では適していない。
ピーター・ドラッガーの「マーケティングの最大の目標はセリングを不要にすることである」という言葉はあまりにも有名だが、基本的なマーケティングの考えとして、「頑張り」「熱意」にはフォーカスせずに、「仕組み」で解決することにフォーカスする。
例えば、ある商品の売り上げが伸びない時、マーケターは「もっと営業マンが熱意を持って売る」「顧客に真摯に向き合う」のような戦略はとらない。「営業マンを増やす」「売る商品を買える」「売る場所を変える」などのファクトベースでの戦略をとる。
したがって、未経験からマーケティング職へのキャリアチェンジを考えるのであれば、「仕組みで問題を解決した経験」を主張すべきだと思うのだ。
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以上、マーケティング職というものをいろいろな観点で考えてみた。マーケティング担当者が読むべきオススメの本なども、追って記事を書きたいと考えている。ので、乞うご期待!