しがないマーケターの戯言

読んで学んで、物を書/描く。

トイアンナさんの「モテたいわけではないのだが」からマーケターとして学んだこと

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トイアンナさんの「モテたいわけではないのだが」を読んだ。タイトルが面白いなと思ったこともあるが、フリーのマーケターとして活躍されているトイアンナさんがどんなお仕事(アウトプット)をされているんだろうという興味があって読んでみることにした。

僕がこの本から学んだのは、その恋愛理論自体もさることながら、トイアンナさんが持っているマーケティング思考だ。「プロモーション」と「コンテンツ」という2つの観点から考えてみた。 

プロモーション的側面

タイトル

まず、「モテたいわけではないのだが」というタイトル。これは本書の冒頭にもあるように、「モテることはいいことだ。けれども、そこまで頑張るほどじゃない」という20代男性のリアルな気持ちをとらえている。このコンセプトが秀逸なポイントは、「気持ちの葛藤」に着目している点だと思う。マーケティングメッセージにおいて、人の気持ちの葛藤に注目することはとても重要だ。例えば、「痩せたいけど、甘い物は食べたい」とか、「英語を勉強したいけど、文法問題を解くだけはやる気が出ない」とか。気持ちの葛藤にはニーズがあって、それを満たせるコンテンツは強いのだ。

狭くて広いターゲット設定

この本の想定ターゲットは20代で、いわゆる草食男子的な男性と思われ、シャープにターゲットを絞っている。マーケティングではこの「ターゲットを絞る」ことは非常に重要だとされているのだ。一方で、本書のポイントは、「許容ターゲットが広い」ことでもある。まず、テーマが「恋愛」という万人が少なからず関心を持つものであるという前提に加え、特にタイトルで「20代」と宣言しているわけでもないので、少しでも心当たりがある男性は10代だろうが30,40代だろうが興味をもつ。これが仮に「20代後半、理系独身男性の彼女の作り方」というタイトルだったら、タイトルにスペックが当てはまる人以外は読まないだろう。

似た事例で思い出すのは、瀧本哲史さんの「ミライの授業」だ。「ミライの授業」は中学生向けに書いた本とされているが、内容としてはどの年代が読んでも興味深いものになっており、ビジネスマンの間でも話題になった。ターゲットを絞りつつ、許容ターゲットは広いのだ。

ミライの授業

ミライの授業

Posted with Amakuri at 2018.6.30

  • 瀧本 哲史
  • 講談社

 

コンテンツ的側面

ハードルが低い提案

コンテンツ面で言うと、本書でのトイアンナさんの提案の「ハードルの低さ」は多くの読者を惹きつけているポイントだと言えそうだ。「モテ」の要因を、学歴や年収などのスペックに求めるのではなく、基本的なところだと「清潔にしている」「無難な服装である」「連絡をマメにする」に求めている。読者は「これなら自分もできそうだ」と思えるような提案ではないだろうか。

タイムリーな情報

マーケティング施策の成否を分ける要素として、「時流に上手く乗る」ということがある。ブログの記事でも、その時メディアで騒がれている芸能人のスキャンダルを取り上げればサイト流入は伸びるし、テレビ番組で紹介された健康食品がスーパーから姿を消すのはそういうことだ。本書では、マッチングアプリの活用や、Twitterの「クソリプ問題」にまで言及している。普遍的な恋愛論ではなく、身近でタイムリーな話題を事例として挙げていることで、読者の共感と納得を呼んでいる。

本質は普遍的な理論

タイムリーな事例を扱っているとはいえ、結論は普遍的な理論に落ち着いていることも納得度を高めているポイントだ。例えば、「自分のほうが物事を知っている、という背伸びをした振る舞い」が特に年上女性には求められないことや、「男性の怒りメーターはトピックごとに分かれてたまっていくが、女性の怒りメーターは彼氏ひとくくりでたまっていく理論」など。むむっとうなる理論をきちんと押さえているところも薄っぺらい内容にとどまっていない理由だろう。

 

もちろん、本書が売れる理由は他にもあるだろうが、上記のように味方を変えると、マーケティングの勉強にもなった、という話。