「進撃の巨人」はそのストーリーの深さから学ぶことが多い漫画だ。(この記事ではコミック25巻までの内容のネタバレを含むので要注意)
巨人の正体とマーレ人
正体不明の巨人に街が襲われるという衝撃的なシーンから始まるこの漫画だが、ついにその巨人の正体が明らかになっている。
実は、巨人の正体は、エルディア人という種族で、主人公のエレン・イェーガーたち自身。そのエルディア人の巨人の力を支配して世界を席巻しているのが、マーレ人たちなのだ。
しかし、物語の中でマーレ政府の支配力に陰りが見える。
マーレ人たちは、巨人になれるエルディア人を支配し、その巨人の力を軍事力として強大な権力を誇ってきた。
一方、マーレ国以外の各国は、エルディア人の巨人の力に対抗すべく、高度な軍事技術を発展させているのだ。マーレは、巨人の力の上にあぐらをかき、他の軍事技術の開発に遅れをとることになってしまった。
そこで急いで、主人公のエレン・イェーガーが持っている「始祖の巨人」というさらなる巨大な力を手にしようとしているというわけだ。
イノベーションのジレンマとは
このマーレ国の状況から僕たちは何を学べるか?
それは、まさにこの状況が「イノベーションのジレンマ」だということだ。
イノベーションのジレンマは、ハーバード・ビジネススクールの教授クレイトン・クリステンセンが提唱した考え方。(詳細は著書『イノベーションのジレンマ』参照)
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
Posted with Amakuri at 2018.8.5
- クレイトン・クリステンセン
- 翔泳社
イノベーションのジレンマとは、優れた経営をしている企業ほど、技術革新に対応できずに失敗する、というジレンマがあるということだ。
技術には、「持続的技術」と「破壊的技術」の2つがある。「持続的技術」は、今すでにある製品やサービスの性能向上につながる技術であり、「破壊的技術」は、一部の顧客には求められるが、今ある製品よりは性能が劣るような技術である。しかし、破壊的技術の発展の先にはイノベーションがあるのだ。
携帯電話の例を考えてみよう。従来の携帯電話はフィーチャーフォンと呼ばれる、いわゆるガラケーだった。ガラケーにとって、持続的技術は、「よりコンパクトサイズにすること」「安く買えるようにすること」「着信の音楽(着メロと呼ばれていた)をたくさん入れられること」などだった。
しかし、そこにAppleが、「インターネット接続」「タッチパネル操作」という全く新しい破壊的技術を追加したのがiPhoneであり、スマートフォンだ。今でこそスマホは当然のように使われているが、iPhoneの登場当初は、性能が発展途上だったこともあり、否定的な見方も多かった。しかし、性能の進歩に伴い爆発的な広がりを見せたのだ。
マーレ政府が陥ったジレンマ
進撃の巨人の話に戻ろう。
マーレにとっての「巨人」は、まさに持続的技術そのものだ。巨人の力に頼ってばかりいたので、他国がせっせと破壊的技術の開発に励んでいたのに気づけなかった。「始祖の巨人を奪還する」というマーレの作戦は、イノベーションのジレンマの最たるものだという見方もできる。
この作戦が吉と出るか凶と出るのか、ストーリーの結末が楽しみだ。