しがないマーケターの戯言

読んで学んで、物を書/描く。

「ストーリーとしての競争戦略」を個人のキャリアに活かすには

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ビジネスの成功は法則ではない。ストーリーである。

一橋大学の楠木建先生「ストーリーとしての競争戦略」を読んだ。経営学といえば、3C, SWOT, 4Pなどのフレームワークがイメージされがちで、あたかも成功の法則があるかのように語られるが、本書はこれを真っ向から否定する。

本書で紹介されていた一橋大学の沼上幹先生の言葉を引用するとこうだ。

 「どうすれば成功できるのか」という問いに対する答えは、「法則はないけれども、論理はある」以外に社会科学の一分野としての経営学は用意できるものがない。

少ないサンプルから成功の方程式を語られるよりも、その企業ならではのストーリーが成功につながるという本書の主張は納得度が高く、マーケティングや事業戦略に関わるなら知っておきたい概念だ。また、後述するが、個人のキャリアにおいてもこの観点は必要だと感じている。

ストーリーとしての競争戦略とは

まず、簡単に本書の内容を自分なりにまとめてみる。

経営戦略の本質は「違い」「つながり」である。様々な打ち手によって競合と「違い」をつくり、その打ち手と打ち手を「つないでいく」ということだ。

「打ち手がつながる」とは、価格、商品特性、サービス内容、提供方法、ロケーション、プロモーション手段、製造工程など・・様々なビジネスの構成要素が、組み合わさり、相互作用する中で、初めて長期利益が実現されるということだ。

そして、戦略ストーリーの評価基準はストーリーの一貫性(Consistency)だ。一貫性の次元は以下の3つ。

ストーリーの強さ:構成要素間のつながり。因果関係の強さ。
ストーリーの太さ:構成要素間のつながりの数の多さ。一石で何鳥にもなる打ち手。
ストーリーの長さ:時間軸でのストーリーの拡張性、発展性。

わかりやすい例だと、スターバックスは単なるコーヒーショップではなく、「第三の場所の提供」をコンセプトとしているカフェ事業である。例えば、「全席禁煙にする」という1つの打ち手は、「第三の場所」として多くの人がコーヒーの香りを楽しめ、リラックスできる場所となることにつながる(ストーリーの強さ)。そして、禁煙とすることは、店舗の雰囲気(関節証明、穏やかなBGM、座り心地の良い大きめのソファ)と非常に相性が良く、第三の場所としての価値をより際立たせる(ストーリーの太さ)。さらに、スタバは日本に進出した際、大手町、有楽町、青山、銀座などから出店されたが、こういった慌ただしいビジネス街は、ビジネスパーソンが一息つく場所=第三の場所として相性が良かったからだ。しかし、このコンセプトはビジネスマン以外にも広く認められていったので、現在では日本中に展開されることになった(ストーリーの長さ)。

個人にもあてはまるストーリー性

冒頭でも少し触れたが、このストーリーという観点は、個人のキャリアという観点でも重要であると思えてならない。

例えば、現在、特にSNS界隈では一斉を風靡しているキングコング西野ひろゆきさんは、芸人でありながら絵本作家であり、ブログのライターであり、小説家であり・・一見全く関係のないようなキャリアをたくさんもっているように見える。しかし、芸人として物事を面白く語る技術を活かして小説や絵本のストーリーを作り、芸人としての成功で得た知名度と、SNSを使ってそれを拡散。これからは「信頼」が広告のキーであるとして、絵本を無料コンテンツとして提供したり、信頼を数値化するWebコンテンツの「レターポッド」などの開発で話題をかっさらっている、というように、自身の経験やコンセプトを連鎖させて自身の価値を高めているように見える。

こういったことを考えると、自分のキャリアも自分なりのストーリーを描く必要があるのではないか、と思う。僕の場合は、マーケティングや広告、セールスライティングの経験を積んできた。例えば、今までのキャリアとは全く関係のない「学校の先生」という職業に就くとする。その場合、これまでのマーケティングという経験を活かして、社会の授業で身近なマーケティングの例を取り出してわかりやすく説明するなど、「自分にしかなれない先生」という生き方があるかもしれない。

自分だからこそもっているストーリーで活躍する。そういうキャリアを描きたいものだ。