山口義宏さん「マーケティングの仕事と年収のリアル」を読んだ。よく学生や転職を考えている人から、「マーケティングってどんな仕事ですか?」と聞かれる。実際に「マーケティング」というのは非常に広義な言葉であり、企業によって範囲の異なる非常に曖昧なものだ。自分自身も10年マーケティングというものに関わってきたが、例えば学生の方にマーケティングをわかりやすく説明するのは難しいし時間を要する。でもこの本を読んで、よりマーケティングという仕事の解像度が高まり、理解が深まった。
この本で扱われているトピックス
・マーケティングの仕事の種類や範囲、業界など
・事業会社とマーケティング支援会社の違い
・マーケター6つの成長ステージ
・キャリア構築の7つのパターン など
おすすめする人
この本を読むことをぜひおすすめしたいのは、20代~30代のマーケティング職として働いている人、もしくは働いてみたい人。5年~10年スパンでの自分自身のキャリアを考える上で非常に参考になると思う。
マーケティング職を考えている学生の方も読むとかなり有益だと思うが、かなり詳細に書かれているため、少し難しいかもしれない。ある程度マーケティングという仕事について調べているベースがあれば挑戦してみると面白いと思う。
面白かったトピックス
マーケティングキャリアの6段階
筆者によると、マーケターのキャリア構築には6つの段階がある。
・ステージ1:マーケティング業務の見習い
・ステージ2:特定業務の担当者(ワーカー)
・ステージ3:特定領域の専門家(スペシャリスト)
・ステージ4:マーケティング施策の統合者(ブランドマネージャー)
・ステージ5:ブランド・マーケティング全体の責任者(CMO)
・ステージ6:マーケティングに強い経営者(CEO)
この中でも大きな判断になるのが、「スペシャリスト」としてのキャリアを歩むか「マネジメント」としてのキャリアを歩むか、ということ。
スペシャリストは、SNSマーケティング、ユーザー調査、PR広告、など特定の領域での深い専門性を武器に、プレイヤーとして活躍していくキャリア。広告代理店などの支援会社での経験がある人は強い専門性を持っていることが多い。
マネージャーは様々な専門領域を横断してプロジェクトやブランドを統合していく役割。広い専門知識に加えて、折衝力やコミュニケーション力、部下の育成力などが求められる。
企業においては、マネジメント層のほうが役職が高い傾向にあるため、高給であるイメージもあるが、筆者によると必ずしもそうではないようだ。
マネジメントとスペシャリストは役割の違いにすぎず、場合によっては報酬レベルの優劣もつかず逆転するケースすらあります。高度なスペシャリストとして独立起業した人は、ときにマネジメントを大きく超える報酬を得る人もいます。
あえて下世話に金額の話をすれば、ごくまれにスターレベルのクリエイターが独立すると、年収が億単位になる人もいます。そこまで極端でなくとも、スペシャリストとして独立企業し、年収が数千万円レベルに達する人も多数存在します。つまり、スペシャリストかマネジメントかの選択は、報酬面においても、単純な上下関係ではありません。
事業会社として中から関わるか、支援会社として外から関わるか
マーケティング職として事業会社か支援会社か、というのは非常に大きな分岐だ。事業会社、つまり自社でエンドユーザーに提供する商品やサービスを持っている企業(消費財や食品メーカーなど)のマーケティング担当者は、以下のように非常に広い範囲の業務を担う。
事業会社のマーケティング業務プロセス
・顧客ニーズ調査~事業・マーケティング戦略策定
・商品・サービスの企画
・プロモーション施策の企画・実施
・流通施策の企画・実施
・購入後施策
一方、支援会社(広告代理店や調査会社など)は上記の一定のプロセスのうち、どこかに高い専門性を持ち、様々な業界の知識を駆使して事業会社の支援やコンサルティングを行う。業務プロセスの範囲は事業会社のマーケターに比べて狭くなるが、専門としている分野では知識が深くなり、様々な業界おマーケティングの知識も身につくことになる。
業務プロセスの深さと専門性、両方重要だと思うのだが、個人的には「マーケター」を名乗る以上は事業会社で一つのブランドやビジネスに責任をもって業務をまわす経験は重要だと思うのだ。筆者は以下のような言葉で語られているが、マーケティングの専門知識は、そのビジネスに利益をもたらすためにあるはずだし、多くの場合「こうすれば良い」ということがわかることが重要なのではなく「それを実行する推進力」が重要だったりするからだ。
この「事業として施策投資し、利益回収する」マインドやスキルが欠落したまま、マーケティングの専門知識ばかり増えている人は要注意です。会社に利益を生み出さないのに「自分はよく勉強している。まわりは勉強不足だ」と偏ったプライドだけが高くなり、”組織内で扱いにくい人”に陥るリスクがあります。マーケティングというのは、あるべき理想論と、現実的な車内の意思決定や業務が乖離しやすい世界です。
マーケティングの仕事というと、データやビジネスフレームワークを使って頭だけを使うもののようなイメージもあるが、決してそれだけではない(「考えること」が超重要であることに変わりはないけど)。
例えば、コーヒーショップのマーケターが、様々なデータを分析し、「Smallサイズのコーヒーの価格を30円上げたほうが売り上げと利益が上がる」という仮説を得たとする。その答えにたどり着くことは、マーケターの仕事の一部にすぎず、実際の業務では
・店舗のマーネジャー層に意見をぶつけて議論する
・上層部にプレゼンして合意を得る
・経理や財務部と値上げが問題ないか議論する
・店舗のメニューの価格表示やWebサイトの価格表示をいつどのように変更するか推進
・レジのCRMシステムの改定をIT部と議論し推進する
などなどの途方もない仕事が出てくるはずなのだ。
僕は、こういったことも含めて、マーケティングという仕事について語れることをもっともっと増やしていきたい。そのためにも、今回読んだ「マーケティングの仕事と年収のリアル」で語られていることを理解することはとても重要だと思った。