しがないマーケターの戯言

読んで学んで、物を書/描く。

デザイン思考/アート思考とは何か

 デザイン思考

近年「デザイン思考」「アート思考」という言葉が多くのビジネスパーソンの間でもてはやされている。とはいえなかなか抽象的な言葉ではあるので、その違いを説明しろと言われると困ってしまう人も多いのではないだろうか。

これらの言葉は世界中の人が様々な文脈で使われる。なので定義は文脈によって異なるのかもしれないが、ここでは基本的な意味を理解するために、僕が様々な関連書籍を読んだ上で一つの答えを示したい。

まずは、デザイン思考・アート思考の話をする前に、1人のしがないマーケターとして比較対象でもある「マーケティング思考」について考えてみたい。

 

マーケティング思考とは

マーケティング思考とは、顧客のニーズを細分化し、深掘り、その解決策を提示して、利益を上げる。ビジネス的な思考のことだ。

マーケティングはビジネスの中で生まれた言葉であり、顧客の課題を解決するといっても、売上や利益といった最終的なゴールを無視しては成り立たない。

定量的なデータや論理性を重視しながら、人が何を求めているかを考えて、それに応える。それがマーケティング的な思考のことだ。

マーケティングの神様・コトラーは以下のように定義している。

マーケティングとは人間や社会のニーズを見極めてそれに応えることである。マーケティングを最も短い言葉で定義すれば「ニーズに応えて利益を上げること」となろう。(フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー『マーケティング・マネジメント』

マーケティング・マネジメント

また、マーケティング思考を理解する上で非常にわかりやすくまとめられているちきりんさんの「マーケット感覚を身につけよう」では、マーケット感覚を「売れるものに気がつく能力」であり「価値を認識する能力」であるとしている。

マーケット感覚を身につけよう

 

デザイン思考とは

では、次に本題となる「デザイン思考」。デザイン思考とは、人のニーズや心理的・感情的な側面にフォーカスして、優れた解決策や体験を考え提示することだ。マーケティング思考と異なり、より人の感性や感情を重視し、必ずしもそのビジネスの売上や利益といった観点が含まれない。「感性思考」と呼ばれたりもする。

とはいえ、デザイン思考とビジネスは密接に関係している。結局企業がなんらかの商品やサービスを通して利益を上げることは、顧客に優れた価値を提供して、「役に立つ」ことが求められるからだ。そして、現在の社会は、オンライン・オフラインの複雑な顧客体験が重要視されるようになったため、「デザイン思考」の重要性がますます高まっている。だからこそ、世界中のビジネスパーソンがこぞってこの「デザイン思考」に注目しているといえる。

デザイン思考の教科書

感性思考

また、デザイン思考はマーケティングの中に取り入れられるべきだという議論も多く、コトラーが提唱した「H2Hマーケティング」の中でも、そのプロセスの中に明確に「デザイン思考」が置かれている。

H2Hマーケティング

 

アート思考とは

一方で「アート思考」とはどういったものだろうか。ほぼデザイン思考と同じ意味として使われることもあるが、一つの見方はこうだ。答えを探すのがデザイン思考で、問いを探すのがアート思考。新しい問いを立てることができる洞察力とユニークな視点を持つことである。

ロンドンを中心に覆面で活動するアーティスト・バンクシーという人物をご存知だろうか。彼は世界各国のストリートに、社会風刺的な作品を生み出し、作品を通して反戦、反暴力、反体制、反資本主義などを訴える。

つまり、何かの課題に対して解決策を考えることではなく、自分の中にある社会の見方や変化に向き合うこと。それを表現したのがアート。ゼロベースで問いを立てる、という意味ではクリティカルシンキングに似ているが、クリティカルシンキングはロジカルに考えるためのツールであり、はっきりとした目的がある点でアート思考とは異なる。

アート思考

 

以上、まとめると

●マーケティング思考:顧客のニーズに応えて利益を上げることを考える思考

●デザイン思考:人の心理的・感情的な側面にフォーカスして、優れた解決策や体験を考えること

●アート思考:自分の中にある社会の見方や変化に向き合い、問いを立て、ユニークな視点を持つこと

 

深く理解されたい方は上記で紹介している参考書籍をご確認ください。