しがないマーケターの戯言

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行動経済学の基礎理論30とおすすめ本

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この記事では、プロスペクト理論、ナッジ理論など、行動経済学を代表する30の基礎理論を箇条書きでまとめた。マーケティングの実務でもよく使う考え方ばかりだし、マーケティングを担当していなくてもあらゆるビジネスで役立つ理論ばかりだと思う。

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iroiromanabu.hatenadiary.jp

参照書籍

この記事の執筆にあたり参照したのは以下3冊。

1.行動経済学見るだけノート

イラストでわかりやすく行動経済学の基礎がまとめられている。超入門書としてはおすすめ。

2.[エッセンシャル版]行動経済学

学問的に網羅性の高い1冊。背景の実験などをしっかり理解するにはとても良い。

3.予想どおりに不合理

行動経済学ブームの立役者、ダン・アリエリーの著書。具体例がかなり豊富で理解が深まる。その分読むのには時間がかかる。

 

行動経済学とは

行動経済学は、人の「心」に着目した経済学。伝統的な経済学とは前提が異なる。伝統的な経済学では、人に「感情に振り回されず、自らの利益のために行動する、合理的な人間である」という前提を置いている。それをホモ・エコノミカス(合理的な経済人)という。行動経済学が想定する「人」は、それぞれの価値観で行動し、時として不合理な意思決定もする生身の人間である。

 

行動経済学の基礎理論30

 

1.プロスペクト理論

現実の人間が、実際にどのような選択をするのかを予測した、行動経済学の代表的な理論。2002年にノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンが提唱した。

プロスペクト理論1つめの特徴は、私たちは選択をするとき、全くゼロから検討始めるのではなく、選択肢を「参照点」と比較する。すなわち、私たちの意思決定は、入手できるすべての情報ではなく、参照点からの変化にもとづいているということ。

2つめの特徴は、私たちは、自分がすでに保有しており、それゆえに失う恐れがあるものを、まだ所有しておらず購入できるものよりも重視する傾向があることだ。

 

2.現在バイアス

後から多額の報酬をもらうより、額は減っても今すぐに報酬を受け取るほうを不相応に好むこと。遠い先の結果に対する選好は変化する(時間不整合性)。儲け(利益)はできるだけ早く確定したいと考える一方、損失は先送りしたいと考えている。利益より損失のほうを大きく感じる。

 

3.損失回避性

人は利益の増加よりも、損失の増加に敏感に反応するということ。

 

4.保有効果

現状維持バイアスの背景にある、すでに持っているモノを高く評価したがる傾向。

 

5.決定の重みづけ

プロスペクト理論を支える重要な考え。人は「客観的な確率」を「主観」によって歪めて考えてしまうこと。例えば、飛行機の事故をニュースなどで目にすると、自動車事故に遭う確率の方が高いのに飛行機に乗ることを恐れてしまう、など。

 

6.ヒューリスティック

人は自分の頭の中に残っている情報(記憶)や経験などをもとに、意思決定を行う。

 

7.利用可能性ヒューリスティック

関連する情報をすべて入念に調べることなく、簡単に手に入る情報に頼ること。利用可能性は、初頭効果と親近効果という心理学の概念ともかかわりが深い。目にした情報の最初と最後の部分を記憶しやすく、中間の部分ははるかに忘れやすいからだ。また、ハーディングもヒューリスティクスのひとつ。他者をまねることは、次の行動を決める手っ取り早い手段だ。

 

8.初頭効果

最初に伝えられた情報が、判断や意思決定により大きな影響を与えること。

 

9.親近効果

初頭効果とは逆に、あとから出てきた情報、あるいは最新の情報が記憶に鮮明に残り、意思決定に大きな影響を与えること。

 

10.代表制ヒューリスティック

私たちは類推で物事を判断することが多い。類似性がありそうに見えるというだけの出来事から、もっともらしい関連性を見つけてくる。もともと自分が持っている筋書きや固定観念に判断を合わせる。

 

11.アンカリング

最初にインプットされた参考となる情報が、錨のように心の働きをコントロールしてしまうこと。例えば、「将来に希望はありますか?」と聞かれると回答がポジティブなものに、「将来に不安はありますか?」と聞かれると回答がネガティブなものになる傾向がある。

転職するとき、あるいは家を売るとき、正当な収入や売却価格に関する私たちの認識は、現在の収入や家を買ったときの価格、あるいは隣人が最近家を売った価格が基準になる。

 

12.ナッジ理論

それと気づかせることなく特定の人や人々を、合理的と考えられる好ましい方向に誘導する行為。例えば、コンビニで見かける足跡・矢印のステッカー、男子トイレの便器にあるハエのイラストなど。

 

13.リバタリアン・パターナリズム

自由な選択を尊重(リバタリアン)しつつ、気づかれないように人々の意思決定に介入してより良い意思決定に導くこと。ナッジ理論のひとつ。

例えば、「遅刻するな」と強制されるのではなく、「午前9時までは社食とドリンクがタダ」などのインセンティブを用意すること。

 

14.デフォルトオプション

選択肢を変えることはリスクをともなったり、労力がかかったりするので、現状を変えることにはあまり積極的にならない。デフォルト・オプションになっていることで、それが最適な選択肢だというシグナルと受け取る。(ナッジのひとつの例)

例えば、最初から購読希望にチェックの入っているメルマガ登録のチェックボックス。携帯電話会社や銀行サービスに満足していなくてもスイッチングを避けたい心理など。

 

15.現状維持バイアス

すべて物事は今あるままにしておこうとする傾向。背景には、これまでと違う状況を選ぶことへの不安やストレスを避けようとする心理が働いてる(損失回避)。

 

16.ブーメラン効果

ナッジ理論により促そうとした行動が、逆効果となること。例えば、同じ地区の他の世帯の電力消費量に関する情報を提供した場合、近隣の平均より電力消費量が低いことがわかった家庭は、隣人たちのほうがたくさん消費しているという社会的情報に意を強くして、消費量を減らすどころか増やした。

 

17.ハーディング現象(群衆心理)

一人ではなく、群れをなしたいという心理。大勢でいることに安心感を覚えること。例えば、行列のあるレストランには行ってみたくなるなど。

 

18.インフォメーション・カスケード

明確な根拠がないにもかかわらず、人の行動に影響されて、特定の意思決定が広がっていくこと。オイルショック時のトイレットペーパー騒動など。

 

19.バンドワゴン効果

多くの人が支持しているものを「良い」と感じてしまう傾向があること。

 

20.ハロー効果

何かを評価する時、目立ちやすい、パッと見てわかる特徴に基づいて判断を行いがちであること。例えば、CMタレントのイメージが、後光がさしているかのように商品への好印象を高め、消費者の購買意欲をかき立てること。

 

21.フレーミング効果

たとえ同じ確率でも、言い方が異なると印象がまったく変わってしまうこと。例えば、「この手術の結果、死に至る確率は20%です」と言われるのと、「80%の確率で手術は成功します」と言われるのでは印象が異なる。タウリン1gよりも、1000mgのほうが多い印象を与える。

 

22.ギャンブラーの誤謬

特定のことが起きる確率を、自分の主観や感覚で買ってに高く見積もってしまうこと。例えば、ルーレットで3回続けて黒が出ると、次は赤が出るかもしれないという予測が働くこと。

 

23.コンコルド効果

人はそれまでに支払った回収できないお金・労力(サンクコスト)の回収にこだわってしまうということ。

 

24.選択のパラドックス

人は選択肢が多いと、失敗や後悔を恐れて心に迷いが生じ、無力感を感じてしまう。選択肢が増えるほど、一つを選ぶのが難しくなってしまう。

 

25.心の慣性の法則

一度手に入れたプラスの価値は手放したくないという心理。試供品として無料で手に入れたとしても(初回限定で格安で手に入れたとしても)、一度、満足感を得てしまうと手放したくなくなり、購買を続けたくなってしまう。

 

26.不平等回避

私たちは不平等な結果を嫌う。他人が自分と比べてずっと恵まれている、あるいはずっと不幸であることも好まない。裕福な人は貧困な人を見て悲しい気持ちになる(優位の不平等回避)。貧困な人は裕福な人を見て、さらに強く不平等は嫌だと感じる(劣位の不平等回避)。

 

27.メンタル・アカウンティング

お金に関する意思決定は、どの勘定に入ると認識するかに影響される。宝くじの当選金なら、散財するかもしれない。同じ金額を一生懸命働いて稼いだら、貯蓄する可能性が高い。クレジットカードを使ってネット通販で多額の買い物をしたら、それは何らかの面で現金払いより得だと認識したことになる。

 

28.アレのパラドックス

リスクのある結果に対する人々の反応には安定性や一貫性がない。具体的には、リスクのある選択肢ばかりが提示されたときにはリスクが高いほうを選ぶ人でも、リスクのある選択肢と確実な選択肢を提示されると、確実なほうを選ぶ傾向がある(確実性効果)。

 

29.エルスバーグのパラドックス

人は曖昧な選択肢を回避する(曖昧さ回避)傾向があること。

 

30.反射効果

人は損失を回避しようとするときは積極的にリスクを取ろうとし、反対にギャンブルで利得を得ようとするときはリスクを抑えようとする傾向がある。損失に直面したときのリスク選好と、利得を得ようとするときのリスク選好はちょうど鏡に映したように対象である。

 

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以上、行動経済学の代表的な理論をまとめた。詳しくは冒頭で紹介した書籍をご参照。