フォーチュン500を対象とした研究では、CMO(最高マーケティング責任者)の87%が、ソーシャルメディアによって新規顧客を獲得できたかは実証できないことを認めている。らしい。
確かに、SNS、そして「いいね!」の活用を定量化することは、多くのマーケティング担当者にとって課題だと思う。
その点において、ハーバードビジネスレビューの論文『「いいね!」にはどれだけの価値があるか』は、マーケターに面白い示唆を与えてくれる。レスリー K. ジョン(ハーバード・ビジネススクール准教授)、ダニエル・モション(テュレーン大学助教)など、ビジネス界の研究者4名の共著である。
「 いいね!」にはどれだけの価値があるか DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文
Posted with Amakuri at 2018.8.13
- レスリー K. ジョン, ダニエル・モション, オリバー・エムリック, ジャネット・シュワルツ
- ダイヤモンド社
「いいね!」自体の価値は低い
筆者たちは、SNSにおける「いいね!」の効果を定量化するために、様々な実験を行った。「いいね!」をつけた顧客はそうでない顧客よりもよりその商品を購入する可能性が高いのか。
結論から言うと、「いいね!」をした顧客が、よりその商品を購入するという定量的な結果は得られなかった。筆者たちは、その理由を以下のように考察している。
・「いいね!」は、そのブランドの支持表明として、他者の購買意欲に影響を与えるにはあまりに弱すぎる
・SNSのアルゴリズム上、ある人が「いいね!」をしても、他の人のタイムラインには現れないケースも多い
・一部のユーザーは、無差別に「いいね!」をしたり、何らかの割引のために「いいね!」をするので、そのブランドの支持表明として信頼度が弱い
ただし、筆者らはSNSが企業のマーケティングに意味がないと言っているわけではない。
筆者らの研究は、ソーシャルメディアでのマーケティングは、プル型の戦術のみでは効果がないことを示している。現代のソーシャルメディアのマーケティング戦術には、新規のアプローチと従来のアプローチを組み合わせるべきなのである。
懸命な企業は、自社のソーシャルメディア・チャネルをモニターし、説得力のある支持表明を探し出し、それをマーケティングのメッセージに組み込むことで、この障害を乗り越えられる可能性がある。
としている。
SNSを、顧客からのフィードバックを集める手段として使いサービスを改善したり、顧客のアイデアを集めて新商品を開発したり、熱心なレビューを発信しているユーザーの投稿をWebサイトへ掲載したりするということだ。
「いいね!」の価値とは何か
僕自身は、本論文の主張には納得している。一方で、SNSをマーケティングに活用しているマーケターの一人としては、他の観点もあるとは思う。
例えば、上記の議論には「いいね!」の「量」という観点は含まれていない。もしある企業の投稿に「いいね!」が1万件もついていたら、1件の「いいね!」よりも、そのブランドへの注目度や信頼度は雲泥の差になるはずだ。
また、検証方法は論文を読んでいただきたいが、ここで出てくる検証方法は、「直接的な売り上げにつながるかどうか」ということにフォーカスしている。
多くのマーケターが理解しているように、SNSは、顧客の「認知」や「興味」を高めるための初期接点ツールであることが多い。1件の「いいね!」に直接的な売り上げ貢献の有意差が見られなくても、長期的に見ると、その1件から興味を持ち、1年後に商品購入に至っているかもしれないのだ。
***
直接的で定量化できることだけを追っていると、近視眼的なマーケティングに陥りがちだ。人の感情的な部分にもフォーカスしながら、バランスの良いマーケティング活動を行っていきたいと思う。