10年ぶりに会った予備校時代の友人が備前焼職人になっていた。
Profile
田中良樹 Yoshiki Tanaka
1987年生まれ 岡山大学経済学部卒
大学を卒業後、地元で保険の営業マンとして活躍し、約6年ほどで退職。備前焼職人として、"Blackhole"というブランドを作る。現在はアクセサリー、食器、表札などを作って提供している。
備前焼とは
「備前焼」とは、岡山県備前市を発祥とする伝統工芸品であり、「伊部(いんべ)焼」とも呼ばれる。多くの陶器は焼かれる時に、釉薬(ゆうやく)という上薬を表面にかけて色や質感をコントロールするが、備前焼はその釉薬を使わず、素焼きをすることに大きな特徴がある。だから、色や焼き具合はコントロールできず、品質は不均一である。しかしそれが陶器としての味を出すのだ。
田中良樹との出会い
さて、今回久しぶりに会った友人は、田中良樹くん。僕は大学受験で浪人をして、地元のオンボロ予備校で1年間勉強したのだが、その時の同級生だ。見かけはけっこうイカついが(笑)、かなり真面目ないい奴である。
この見かけ(写真左)からは想像できないかもしれないが(?)、彼は浪人時代もきっちり勉強し、地元の国立大学である岡山大学の経済学部に入学・卒業し、手堅く地元で就職し、保険の営業をしていた。人は見かけによらない。ギャップは、大切だ。
彼はとても真面目だ。保険の営業マンとして、もちろん真面目に働き、一定の成果を出し、信頼も得ていたはずだ。しかし、自分の仕事が本当に人の役に立てているのか、というところに疑問を感じ始め、もっと自分が誰かの役に立てることがあるんじゃないかと考え、退職を決めた。
そして、独立して、備前焼職人になり、"Blackhole(ブラックホール)"というオリジナルブランドを作った。
備前焼との出会い
彼と備前焼との出会いは大学時代。バイト先の上司が趣味で備前焼をやっていた。その上司の紹介で、岡山県備前市で本格的に備前焼職人として活躍する師匠に出会った。
その師匠と出会い、趣味で月1くらいのペースで備前焼を作っていくことになった。そしてその趣味は社会人になってからも続いた。同時に彼はピアスやネックレスなどのアクセサリーが好きだったため、備前焼では通常、湯呑みや皿が作られるのだが、彼はいつのまにか、備前焼で趣味のアクセサリーを作るようになったのだ。
彼の作品は多岐にわたる。湯呑みや徳利(とっくり)などの食器はもちろん、女性用・男性用のピアス、ネックレス、ドッグタグ、箸置。備前焼以外にも、スケボーの板で作るアクセサリーなども手掛けるらしい。頼まれたら何でも作ってしまう職人だ。最近では、新築で家を建てられた方に、表札の製作なども頼まれるそうだ。SNSや電話のやりとりで、希望のものを作ってくれるので、興味のある方はぜひ連絡してみてほしい。
好きな事を仕事にする生き方に
彼のブランド名の"Blackhole"だが、彼が学生時代、B系のファッションにはまっていたことに由来する。大学でのあだ名もB系(笑)。ちなみにB系とはキャップやカジュアルなスタイルのこういうやつだ。
Bで始まり、人のニーズ、自分の経験、トレンド、周りのいろんなことをブラックホールのように無限に吸収して、何でも作品として創り出したい。そんな意味を込めてブランド名を決めた。
現在、彼は飲食店でのバイトとかけもちしながら、自宅で製作活動に励んでいる。1日中家を出ずに製作に没頭することもザラである。それでも彼は、「好きな事なので全く苦に感じない」と言う。自分が没頭できるほど好きなことで、人に喜んでもらい、お金をもらう。彼の働き方に、「働く」ということの本質を感じた。
「当面の目標は、職人としての収入だけで生活していくことだ」と語る彼の表情は、とても清々しく、力強かった。