この記事は、「イノベーション?何それ食えんの?」という人のために「イノベーションのジレンマ」を中学生でもわかるように解説した記事だ。
「イノベーションのジレンマ」は、クレイトン・クリステンセンという超有名な経営学の教授が提唱した経営学の理論であり、優れた経営者が合理的な判断をして会社を経営すればするほど、イノベーションが生まれなくなり、ライバルの企業から遅れをとってしまうという理論だ。
*「経営学」は、会社を運営していくための知識や心構えを学ぶための学問。例えば、どうやって商品を作って、どうやって売れば良いのか。社員をどうやって集めて、どんな組織を作れば良いのか。お金はどうやって使えば良いのか、など。
イノベーションとは
まず、「イノベーション」という言葉の意味を確認してみよう。
「イノベーション」は日本語では「技術革新」と訳されることが多い。言い換えると、社会に役立つ素晴らしい発明やアイデアを生み出し、社会の仕組みを変えたり、大きな影響を与えたりすることだ。
例えば、スマートフォンの発明。その代表であるiPhoneが初めて登場したのは2007年のこと。今や日常生活に当たり前になっているスマートフォンだが、まだ10年ちょっとの歴史しかない。
このスマートフォンの登場によって、人の生活は大きく変わった。それまでの携帯電話の延長の機能ではなく、まるでパソコンをポケットサイズにしたようにたくさんの機能があるのがスマートフォンだ。
人々はどこでも高性能カメラさながらの写真を撮れ、動画や映画を楽しめ、地図で道案内もしてもらえるようになった。これはイノベーションのひとつと言って間違いない。
ジレンマとは
次に、「ジレンマ」とはなんだろう。「ジレンマ」は、相反するものの板挟みになるということを表す。「ヤマアラシのジレンマ」という有名な逸話がある。寒さの中、二匹のヤマアラシが身を寄せ合って暖め合おうとするが、近づきすぎるとお互いの体の針が当たってくっつけない。それを「ジレンマ」と表現するのだ。
他にも例を考えてみよう。好きな女の子ができたとする(読者が女性の場合は、男の子)。でも、実はとても仲の良い親友も同じ人を好きだということが判明した。もし、自分の気持ちを親友に打ち明けると、友情にヒビが入ってしまうかもしれない。そんな2つの気持ちの板挟みの状況も、「ジレンマ」と言えるだろう。
イノベーションのジレンマとは
さて、ようやく本題。イノベーションのジレンマとは、優れた経営者が合理的な判断をして会社を経営すればするほど、イノベーションが生まれなくなり、ライバルの企業から遅れをとってしまうという理論だ。
普通に考えると、優れた経営者が「合理的な判断をする」のだから、どんどん会社の業績は伸びてライバルに負けるわけはない、と思わないだろうか?そこに「ジレンマ」がある。
これを、もう少し身近な例で考えてみよう。
プロ茶道家と農家の抹茶屋さんの話
例えば、ここにプロの茶道家が美味しい抹茶を出すお茶屋さんがあるとしよう。プロの茶道家が丹精込めて淹れるお茶が飲めるということで、たくさんのお客さんが来ている。
そのお店の隣に、平凡な抹茶を売るお店ができた。店主はプロの茶道家ではなく普段は農業を仕事にしている男だった。お茶の味こそ平凡だったが、その男のお店では搾りたての牛乳も出していた。その牛乳も、密かに人気を集めていたが、お客の数はプロの茶道家のほうが5倍は多かった。
プロの茶道家はもっとたくさんのお客を集めるために言った。「よし、もっと高級で風味の良いお茶を仕入れよう。そして俺のプロとしての腕前で、ますます人気のお店になってやるぞ。牛乳を出すなんて、邪道だよね。」
これは極めて合理的な判断だ。なぜなら、プロの茶道家は、美味しいお茶を淹れることが得意だし、たくさんのお客さんがそれを美味しいと言っているからだ。わざわざ人気のない牛乳を提供している暇なんてないのだ。
でもある時、農家の抹茶屋さんは、抹茶に牛乳と砂糖を入れるととても美味しいことに気づいた。そう、「抹茶ラテ」の誕生だ。早速、農家の抹茶屋さんは「抹茶ラテ」を売り出すことにした。
するとどうだろう。抹茶ラテのあまりの美味しさはたちまちお客さんの中で評判になった。農家の抹茶屋さんには、連日お客さんが押し寄せた。
普段はプロ茶道家のお茶を飲んでいたお客さんも、「甘いドリンクも良いな」と農家の抹茶屋さんに通うようになった。そして、いつのまにか、プロ茶道家のお客さんよりも農家の抹茶屋さんのお客さんのほうが多くなってしまったのだ。
抹茶のイノベーション
この抹茶ラテの話でいうと、言うまでもなく、農家の抹茶屋さんが生み出した抹茶ラテがイノベーションだ。農家の抹茶屋さんは偶然にも抹茶と牛乳を組み合わせて「抹茶ラテ」を生み出し、爆発的なヒットにつながった。
では、プロの茶道家のやり方は間違っていたのだろうか?
抹茶ラテが登場する前、プロ茶道家のお茶は間違いなく人気があったし、たくさんのお客がそのお茶を美味しいと言って飲んでいた。だから、プロ茶道家はより高品質な抹茶を仕入れてもっともっと美味しい抹茶を提供しようとした。極めて合理的な判断である。
優れた経営者は、今現在利益を生み出しているもの(事業)に優先的に力を入れて(投資をして)、より利益を大きくする。しかし、その背後で、小さなライバル企業が革命的なビジネスを育てていて(最初は利益が小さいけど)、気づいたら追い抜かれている。
これこそが、「イノベーションのジレンマ」。つまり、優れた経営者が合理的な判断をして会社を経営すればするほど、イノベーションが生まれなくなり、ライバルの企業から遅れをとってしまうという理論なのだ。
持続的イノベーションと破壊的イノベーション
ちなみに、「イノベーションのジレンマ」では「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」という言葉が出てくる。
お茶の例で言うと、プロ茶道家がとった戦略「高品質な抹茶を仕入れる」というのは「持続的イノベーション」であるとも言える。持続的イノベーションは、ある魅力的な商品の延長線上にあるもの(改善や改良)という意味だからだ。
そして、抹茶ラテが「破壊的イノベーション」だ。抹茶ラテは、単なる抹茶の延長線上にはない。いくらプロ茶道家が腕を磨いても、抹茶ラテの美味しさを生み出すことはできないからだ。
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以上、できるだけ簡単な例を用いながらイノベーションのジレンマをご紹介した。もっと詳しく知りたくなった方はぜひ本書を。
また、イノベーションについて深めたい方はこちらもご参照。
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