しがないマーケターの戯言

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Bond大学MBAで受けた全18講義のレビュー|働きながら海外MBA

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オーストラリアのBond大学と、BBT経営大学院が提供するコラボコース、Bond University BBT MBA Programを卒業した。この記事では、将来MBA進学を検討されている方のご参考までに、卒業までの全コースの概要と簡単なレビューをざっとご紹介したい。

Bond University BBT MBA Programは、オンラインでBond大学の正式MBAの学位がとれるプログラム。6割は英語で、4割は日本語での講義だ。コースの概要は以下の記事に。

iroiromanabu.hatenadiary.jp

マーケティング・戦略系

✔︎ Marketing Management(マーケティング・マネジメント)

多くの学生が入学後最初にとるコースだ。SWOTSTPなどのマーケティング戦略の王道フレームワークや、価格戦略、ブランド戦略などの基本戦略の考え方を学び、ディスカッションの中で実際に使うトレーニングをする。

教授はニューヨーク・ブルックリン大学の平久保仲人先生。マーケティングが消費者行動論などが専門で、指導熱心で学生からも人気のある教授の一人だ。 

教科書は、マーケティングの神様フィリップ・コトラー『マーケティング・マネジメント』だ。

コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版

コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版

Posted with Amakuri at 2018.9.5

  • Philip Kotler, Kevin Lane Keller
  • 丸善出版

 

平久保先生の代表著書はこちら。

「信用」を武器に変えるマーケティング戦略

「信用」を武器に変えるマーケティング戦略

Posted with Amakuri at 2018.9.5

  • 平久保 仲人
  • PHP研究所

 

✔︎ Management Strategy & Policy(事業戦略論)

 大企業のケーススタディを中心に、マイケル・ポーターの基本戦略(コストリーダーシップ、差別化、集中)や、ファイブフォース分析、VRIO分析などを学ぶ。最も「MBAらしい」授業だったかもしれない。

 教科書はジェイ・B・バーニーの「企業戦略論」であり、分厚い上・中・下の3冊構成。MBAのすべてが詰まっていると言っても過言ではないほどの内容だった。

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続

Posted with Amakuri at 2018.9.5

  • ジェイ・B・バーニー
  • ダイヤモンド社

 

✔︎ E-Business StrategyEビジネス)

この科目は、Eビジネス(Webサイトやモバイルアプリなど)でのビジネスプランを、グループワークで作ることがメインだった。 

プログラミング等の技術的なことではなく、あくまでもデジタルツールを使ったビジネスモデルをどうするか、という視点だった。一方的に何かを教えてもらえる授業スタイルではないので、自分で積極的に調べ、アイデアをアウトプットしないと得られるものが少ないかもしれない。

✔︎ Global Business Leadership(グローバルビジネス)

Leadershipという言葉がついているが、どちらかというとグローバルビジネスのマネジメントや戦略という側面が強かった。他国への展開にはどのような手法があるのか、そして、リスク分析をどのような観点で行うべきかということについて学ぶ。

英語の文献を読んでケーススタディをいくつもこなしていくので、なかなか骨の折れる科目だったが、マクロな視点でビジネスを見ることができたと思う。

✔︎ Management of Innovation(イノベーション)

「イノベーションはマネジメント可能か」という問いを最初に出され、約2ヶ月の講義とディスカッションの中でその解を考えていく。

ディスカッションのための素材としてクリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」を学んだ。これを学ぶことで、自分の身の回りがいかにこのイノベーションのジレンマに陥っているのかを理解できた。

会計・ファイナンス系

✔︎ Business Analysis Methods(統計学)

Bondの科目の中では最難関と言われるのがこの統計学。初歩的な、中央値、平均、標準偏差などから始まり、t分布、有意差、重回帰分析などの範囲まで学ぶ。 

英語の科目である上に、概念だけではなく、テストでは実際に自分で計算していく作業もあるため、もともと本業で統計を扱わない人にとっては厳しい科目だと思う。実際にこの単位を落とす人も出てくる。

✔︎ Accounting for Decision Making(会計学)

会計の基礎を学ぶ。学ぶ理論自体は、簿記3級レベルという話もあるが、ただ計算するだけではなく、ケース問題を解いて論述するテストが設けられているなど、難度は高めだ。

この科目も英語であるため、そもそもケースの読解に時間がかかったりした。会計を実務で使った経験があるかたには簡単なのかもしれないが、マーケティング畑の自分にはなかなかハードな科目だった。

✔︎ Managerial Finance(ファイナンス)

事業投資やM&Aに必要なファイナンスを学ぶ。こちらも英語科目だ。

現在価値、将来価値の計算、それによる企業や事業価値の算出を行う。これも難関科目の一つだ。 

この科目には、石野さんの『道具としてのファイナンス』が神的にわかりやすく重宝した。

道具としてのファイナンス

道具としてのファイナンス

Posted with Amakuri at 2018.9.5

  • 石野 雄一
  • 日本実業出版社

 

✔︎ Economics for Managers(経済学)

『マンキュー経済学』を教科書として、経済学の基礎を総ざらいしていく。こちらも英語科目。需要と供給の変化、競争の原理、固定費と変動費の原理などを扱った。

 こちらもテストでは計算を扱うこともあり難しい科目だったが、個人的にはマンキュー経済学の理論はどれも完成されていてわかりやすく、面白い科目だった。

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

マンキュー経済学 I ミクロ編(第3版)

Posted with Amakuri at 2018.9.5

  • N.グレゴリー マンキュー
  • 東洋経済新報社

 

コミュニケーション系

✔︎ Effective Negotiation(交渉術)

オーストラリアのBond大学の現地プログラムでのみ受けられる科目。ケースを事前に読み込み、チームに分かれて実際に交渉を行う。相手が日本人であってももちろん英語での交渉になる。

英語力の差がかなり浮き彫りになって自分的には厳しかったが、机上の空論ではない実践的な学びが大きかった。Bond受講生の中では最も満足度の高い科目だ。

交渉力―最強のバイブル

交渉力―最強のバイブル

Posted with Amakuri at 2018.9.5

  • ロイ・J・レビスキー, ブルース・バリー, デイビッド・M・サンダース
  • 日本経済新聞出版社

 

✔︎ Business Communication Skills(ビジネスコミュニケーション)

入学序盤に受ける受講生が多い科目。英語でのライティングの基礎やコミュニケーションの基礎を学ぶ。特に留学経験もなく英語力に自信がない場合は、メリットの大きな科目だと思う。

組織・人事系

✔︎ Managerial Role in Organisations(組織行動論)

組織行動論を広く学んでいく科目。リーダーシップ、モチベーション理論などのミクロな視点から、組織の構造に着目したマクロな視点まで。教科書として使用する『組織行動論』は、自分の中ではバイブル的な1冊になった。

✔︎ Leadership(リーダーシップ)

組織行動論の中でリーダーシップのあり方に着目した英語の科目。リーダーシップの種類や、組織や事業のフェーズによって必要なリーダシップのスタイルが異なることを学んだ。リーダーシップとマネジメントの違いを明確に意識できたのはこの科目を通してだった。

✔︎ Effective Project Management(プロジェクトマネジメント)

プロジェクトマネジメントの基礎を学ぶ英語科目。PMBOKProject Management Body of Knowledge)と呼ばれるアメリカの非営利団体によって作られたプロジェクトマネジメントの理論に沿って進められた。

「スコープ(プロジェクトのアウトプット)」「時間(スケジュール)」「コスト」「クオリティ」「リスク」「ステークスホルダー(関係者)」といったことを細かく定義して、管理する思想を学んだ。

✔︎ Values Based Marketing(幸福学)

経営学らしくない幸福学・ポジティブ心理学といった分野を学ぶこの科目。「幸せとは何か」という個人の問題から、「従業員の幸せとはどうあるべきか」「企業は社会の幸福にどう貢献すべきか」という問題を議論する。

MBAというと、理論ばかりを学ぶものだと考えられがちだが、こういったモラルや価値観を学び、議論できることは非常に価値がある体験だったと思う。

起業・実践系

✔︎ Strategy and Innovation(イノベーション)

すべての科目の中で最もタフだったのはこの科目。Bond-BBTの名物科目とも言える。約半年間、毎週絶え間なく課題が出され、オンライン上でクラスメイトたちと議論を行っていく。

中でも、RTOCSReal Time Online Case Study)というケーススタディは、特にハード。毎週月曜日に課題となる企業が発表され、その企業について「自分がその社長だったら、どのような戦略をとるか」というプランを立てるもの。半年間、毎週小レポートを提出し続けるようなものだった。

衣類メーカー、IT企業、半導体商社など、例え全く知らない業界の企業でもほんの数日で分析結果をオンライン上で発表しなければならない。そういった状況で、3CSWOT、クロスSWOTVRIOといったフレームワークを使って、スピーディーに分析するトレーニングになったと思う。

また、BBT大学院の大前研一学長の思考法を学ぶクラスでもある。一流のコンサルタントの講義を毎週のように受講できるなかなか貴重な体験だった。

企業参謀―戦略的思考とはなにか

企業参謀―戦略的思考とはなにか

Posted with Amakuri at 2018.9.5

  • 大前 研一
  • プレジデント社

 

✔︎ Business Planning for Entrepreneurial Ventures(ビジネスプラン)

最後に、実際にビジネスプランを作る科目で、現地のオーストラリアBond大学で2回受講する。1回目は座学で起業家論について学び、約1年後にビジネスプランをプレゼンする形だ(2~5名のグループワーク)。

この科目のコンセプトは大きな夢物語を作ることではなく、「本当に自分たちでスタートできそうな現実的なビジネスプラン(スモールビジネス)」だ。当日のプレゼンでは厳しくFeasibility(実現可能性)が問われる。机上の空論では通用しないので、どのグループもかなり突き詰めて考え、極めて個性的で面白いビジネスプランを発表していた。

ちなみに、自分たちのビジネスプランは、外国人観光客向けに、和装の結婚式をアレンジするプランで、実際にWebサイトも作成した。(詳細はここでは割愛)

 

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以上、卒業までに受講した全科目を総ざらいした。

もし、入学を検討されている方がいたら、ご参考いただきたい。