Google, Apple, Facebook, Amazonという世界を席巻しているインターネット巨大企業を「四騎士」に例え、その成功のメカニズムや、本質を考察したのが、スコット・ギャロウェイ『GAFA 四騎士が創り変えた世界』だ。
スコット・ギャロウェイは、ニューヨーク大学スターン経営大学院で、ブランド戦略とデジタルマーケティングを教える教授だ。
本書では四騎士について様々な切り口で考察を行っているが、その中でも面白いと感じた部分を紹介したい。
共通する8つの要素
まず真っ当な分析から。四騎士の巨大企業には8つの共通要素があるという。(念のためだが以下は僕の理解であり、引用ではない)
1. 商品の差別化
成長している企業の製品が差別化されていることは言うまでもない。そして製品の差別化とは、その製品自体だけではなく、その製品の見つけ方、買い方、配達方法など様々なところ、つまりはバリューチェー全体で起こる。
2. ビジョンへの投資
例えばグーグルのビジョンは「地球上の情報を整理する」ことだ。シンプルで説得力のあるこのビジョンによって、多くの株主が投資する。それにより多くの資源を得、新しいプロジェクトに投資できる。
3. 世界展開
投資家は世界の多様な市場で成功しているビジネスを好む。世界に売って出て大規模に金を稼げるビジネスにより資金が集まる。そして、四騎士はインターネットに関わるテクノロジーを強みとしており、この世界展開という観点では非常に相性が良い。
4. 好感度
世界で成功すればするほど、政府やメディアが監視の目を光らせる。そのため、大きく成功するためには、企業がよき存在、よき市民であり、国や国民、従業員に十分に配慮していると認識されておく必要がある。筆者によると、四騎士の経営層は皆メディアなどで「かわいげがある」ふるまいをするのが特徴らしい。
5. 垂直統合
垂直統合とは、消費者の体験すべてをコントロールしているということだ(反意語は水平分業)。四騎士はすべて流通をコントロールしており、製品を自社生産していなくても、調達、営業、販売、サポートを自社で提供している。
6. AI
四騎士は皆大量の顧客データへアクセスし、AIによって活用している。プロダクトが基幹事業であるアップルさえも、スマホ上の履歴は取得できるし、Apple Payの登場により、決済履歴のデータまでも手中に収めることに成功している。
7. キャリアの箔づけになる
これは言わずもがなだが、四騎士のような時代を牽引するような企業で働くことは、この上ないキャリアの箔付けになる。優秀な人が集まり、イノベーションが生まれる好循環になる。
8. 地の利
四騎士はすべてアメリカ発祥の企業だ。そして世界レベルの大学と良好な関係にある。そこから優秀な人材と最先端のテクノロジーを取り入れているというわけだ。
四騎士を「生き物」として見る
筆者はもう一つ面白い切り口で四騎士を見ている。「生き物」として以下のように例えているのだ。
・グーグル:脳
・アマゾン:指
・フェイスブック:心
・アップル:性器
グーグルの「脳」はわかりやすいだろう。「検索」という機能を使って、どんな知識や情報にもアクセスできるという役割を、グーグルは担っている。
アマゾンは、正確に言うと、「脳と、ものをつかむ指 - より多くのものを手に入れようとする狩猟・採集者としての本能 - をつなぐもの」と表現されている。高度な検索システムやレコメンド機能や、巨大な物流システムをそう表現していることがわかる。
フェイスブックを「心」に例えているのは、フェイスブックが、「人と人とのつながり」をサービスとしているという意味だ。同社の「世界をつなぐ」というビジョンがそれを表している。
最後のアップルの「性器」は、面白い表現だと思う。これは、アップルの製品が、セックスアピール(異性へのアピール)になるほどに、ブランドとしての付加価値を持っているという意味だ。アップルのスマホ市場のシェアは、台数では14.5%に過ぎない一方で、全世界のスマホの利益の79%を独占していることは驚きだ(2016年)。これほどまでに、アップルという製品は、原価よりもはるかに高いお金を払ってでも欲しいブランドを持っているのだ。
世界を「理解する」ことの重要性
本著では、四騎士について、マクロな視点で分析し、オリジナリティ溢れる考察をしている。
世界を席巻しているこの4企業の成功と繁栄が、どういった原理になっているのか、理解するためにはとても良い1冊だと思う。
四騎士について知ることは、何もこれらの企業を超えるような起業をするためだけに必要なことではない。
世の中の事象について、一定の見方ができるようになることは、様々な現象を言葉で説明できるようになることにつながると、僕は考えている。
例えば、読書やビジネススクールで、SWOTや4Pなどのフレームワークを学ぶことは、そのフレームワークを知っていること自体に意味があるわけではない。世の中、もしくは自分の仕事で起こっていることを、フレームワークや、先人たちの知見を借りて「理解」し、「言語化する(説明できるようにする)」ことに価値があるのではないだろうか。
少なくとも、僕は仕事や大学院で学んだことで、世の中の見方が変わり、言葉で説明できるようになったことに、可能性の広がりと面白さを感じている。