しがないマーケターの戯言

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MBAで学んだ交渉の技術と理論|BATNAなど

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僕が学んだBond BBTというオンラインMBAコースでは、交渉術を科目として学ぶ。オーストラリアの現地で、現地の教授や他の学生と一緒に実際にロールプレイなどを通してガッツリ学べるので、かなり面白かった。

このクラスは、ロイ・J・レビスキー『交渉力―最強のバイブル』に基づいて進められた。本書とMBAで学んだ技術と理論について、印象深かったものについてまとめたい。

交渉力―最強のバイブル

交渉力―最強のバイブル

Posted with Amakuri at 2018.7.30

  • ロイ・J・レビスキー, ブルース・バリー, デイビッド・M・サンダース
  • 日本経済新聞出版社

交渉学のバイブル!

ベースとなる考え方

交渉はコミュニケーションの一つであり、その技術は属人的、経験的になりがちであるが、それをスキルとして一般化、体系化し、戦略をもって交渉に臨むことを説いたのがこのMBAにおける交渉術である(実際にコースでは Effective Negotiations として学んだ)。

基本的な考え方としては、ゼロサムの取引ではなく(どちらかが勝つ・負けるではなく)、交渉に参加する双方にとってベストな結論を目指す。そのために、相手を理解し、オープンであり、双方の課題を解決するというスタンスで交渉を進めることに価値をおいている。

交渉における"Range"とは

交渉における"Range"とは、どこから交渉をスタートし、どこに結論を落としていくかの範囲だ。

まず決めるべきは、"ターゲット・ポイント"。こちらが望ましく、かつ現実的であると思っている結論である。例えば、ある商品Aの取引を交渉する場合を想像してみよう。あなたが買い手だとして、値札には10,000円と書いてあるが、実際には8,000円くらいで買いたいとする。その8,000円がターゲット・ポイントだ。

ただし、交渉において、最初からこの8,000円を提示するのは得策ではない。まずは"オープニング・オファー"を提示するのだ。オープニング・オファーは、最初に提示する選択肢のこと。これは、ターゲット・ポイントよりも高い要求であることが普通だ。今回の例で言うと、例えば6,000円と提示しよう。これは、その後の交渉の一つの基準となるので、非常に重要だ。交渉の世界ではこれを"アンカー"と呼ぶこともある。

最後に、レジデンス・ポイントを設定しておく。これは、別名でWalk away point(立ち去るポイント)とも呼ばれ、自分が譲歩できるギリギリのラインという意味だ。例えば今回の場合であれば9,000円といったところだろうか。ここを越えるならば交渉決裂と決めておくことで、その場の空気に流されることなく交渉を進められるというわけだ。

研究によると、ほとんどの人はターゲット・ポイントを上回った1~2回目の提案を受け入れる。1回目の提案は受け入れずに2回目の提案を受け入れるとよい。

<まとめ>

10,000円と値札に書かれたある商品Aの値引き交渉をしたい場合

・ターゲット・ポイント = 8,000円

・オープニング・オファー = 6,000円

・レジデンス・ポイント =  9,000円

つまり、あなたは交渉の結果、6,000円~9,000円までであれば商品Aを購入することになる。

ただし、このやり方だと、交渉の焦点は「価格」だけになってしまい、どんな交渉結果になったとしても、どちらかが得をして、どちらかが損をすることになる。それでは「交渉に参加する双方にとってベストな結論を目指す」という交渉術の本質からそれてしまうことになる。

交渉における"BATNA"とは

そこで重要なのが、"BATNA(バトナ)"という考え方である。BATNAは、"Best Alternative To a Negotiated Agreement" の頭文字をとったもので、「交渉において合意を得るための、最良の代替案」だ。

これは、双方がwin-winになる落としどころの結論である。先ほどの例に戻ろう。自分が買い手の場合、ターゲット・ポイント=8,000円、レジデンス・ポイント= 9,000円だとする。この状況でのBATNAの例は、「9,000円で買うけど、他にお得な特典をつけてもらう」などだ。ターゲット・ポイント には及ばずとも納得できる結論。かつレジデンス・ポイントは超えていない。

このBATNA=代替案をどのくらい持っているかで交渉の結論の幅は大きく変わってくる。BATNAとして考えられる選択肢が多くあり、容易に切り替えられる状態、そして許容範囲が広い状態を、High BATNA(ハイ・バトナ)という。逆に、BATNAとして考えられる選択肢がほぼない状況をLow BATNA(ロー・バトナ)という。

まとめ

このクラスに参加して、交渉のゴールは決して相手を打ち負かすことではないということを学んだ。交渉とは、双方がWin-Winになる最良の結論を生み出す技術なのだ。