しがないマーケターの戯言

読んで学んで、物を書/描く。

就活の前に考えたい「職業」そのものへの理解

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個人的な話になるが、僕は日本のキャリア教育に漠然とした問題意識をもっている。自分が大学生の時、他の多くの学生と同じように就活というものをしながら、就活という1年にも満たない数ヶ月の活動で、人生の大半を占める仕事を決めてしまうという危うさのようなものを感じていた。

当時の自分は、あまりにも会社や業界について、また職業について、そして働くということについて無知過ぎた。もっと学生の間に、強制的にでもいいから企業や職業について教えてくれればよかったのに。そんなふうに思うこともあった。そういった思いから、今でも職業というものについて、学生の方に伝えられることはないかと思い、会社の就活生向けの説明会や、新卒者向けの研修、個人的なOB相談には積極的に協力するようにしている。そんな中出会ったのがこの本田由紀「教育の職業的意義」だ。

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)

Posted with Amakuri at 2018.7.8

  • 本田 由紀
  • 筑摩書房

キャリア教育を考えるなら必読

教育の職務的な意義は薄い

本書は、小中学校、高校、そして大学の教育における職業的意義についてのものだ。僕が個人的にキャリア教育に対して持っていた漠然とした課題を、専門家の立場からクリアにされているという点で、目から鱗な内容だった。学生の方がキャリアについて客観的に見るための材料としてもオススメできる。

注目した点は、日本の教育現場において、「教育の職務的な意義」が希薄化しているという筆者の主張。日本の企業の新卒者の採用時期が早期化していく背景には、企業側がそもそも大学教育に職務的なメリットを期待していないことの証明であるし、学生側も学校の教育が職務的技能の習得に役立ったと思っていないことは、他の先進国と比較しても明確であるようだ。(図は本書より引用) 

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日本がこのように、教育の職務的な意義の希薄化をもたらしている原因の1つとして、筆者は、高度経済成長の企業の人材戦略を挙げている。高度経済成長における日本企業は、長期的な成長が見込まれ、労働力の確保というのが重要な課題だった。そのため、とにかく企業内部に労働力を確保するために、年功序列や補償制度で労働力を囲い込むことに躍起した。この戦略は、必要なポジションやスキルを見極めて人材を採るという発想ではなく、学歴や人格、適性等のポテンシャルを重視したため、学生時代までの職務的スキルは重要ではなくなったのだ。

しかし、言うまでもなく今はもう高度経済成長期ではない。日本の経済は成熟して企業の成長スピードも鈍化、減退した上に、インターネットをはじめとするテクノロジーの進化で企業やプロダクトのライフサイクルは短くなった。企業も、たくさんの人材を採って囲い込むのではなく必要なポジションに最適なスキルを持つ人材を確保する戦略へと進んでいる。その結果、現在の日本のキャリア教育は時代錯誤のものになっているのだ。

なぜキャリア教育が必要か

こういった状況において、筆者は教育に、職業的意義を強めることの重要性を主張している。

筆者はキャリアや進路選択を「若者が自分自身と世の中の現実とを自分の中で擦り合わせ、その摩擦やぶつかり合いの中で、自分の落ち着きどころや目指す方向を確かめながら進んでゆくこと」だとし、そのためには「職業人・社会人としての自分自身の輪郭が暫定的にでま一定程度定まっていること、もうひとつは世の中の現実についてリアルな認識や実感、という二つの条件が必要となる」としている。

さらに、「少なくとも高校以上の教育段階においては、特定の専門領域にひとまず範囲を区切った知識や技術の体系的な教育と、その領域およびそれを取り巻く広い社会の現実についての具体的な知識を若者に手渡すことが、上記ののうな擦り合わせを可能にすると考えている」と主張されている。

つまり、これは自分の単純な理解だが、高校生以上くらいになったら、単純に歌手やアイドルになりたい、スポーツ選手になりたいなど、イメージだけで一部の職業に憧れるのではなく(もちろんその職業の意義を否定するつもりは全くない)現実の社会を自分なりに理解し、自分は何に適性があり、どんな仕事をしたくて、そのためにどのように学んでいけば良いかを考えて行く機会や材料を与えられるべきなんだと思う。

そしてそれは、単純に職業体験をしてみよう!とか、両親の職業についてインタビューしてみよう!とか、一時的、部分的な取り組みだけではなく、一定の分野の専門知識を学ぶことで、理解を深めていくべきだ、ということだ。

ビジネス思考を教育へ導入すべき

我田引水と思われてしまうかもしれないが、そう考えると、経営学やマーケティングを高校生のうちに学ぶのは、学生たちにとってはかなり有用なのではないかという気もしている。なぜなら、経営学やマーケティングというのは、企業を企業たらしめているビジネスの基礎を広く理解する分野だ。それについて学ぶことは、例え経営者にならない人にとっても、働くということにおいて、興味があること、ないこと、得意なこと、不得意なことを理解する良い材料になると思うのだ。もちろん、プログラミングなど、具体的なスキルでも良いと思うが、全ての高校生が学ぶには少し分野を絞りすぎているような気もする。

 

蛇足だが、僕自身は約10年間、マーケティングというものに携わってきて、実務経験を積んできた。そして、MBAで学んだ経営学の知識と併せて、それを学生の方にも伝えられる機会を作りたいと考えている。最後にその1歩として、「就活に向けて、"職業"とマーケティングのことがわかる」というコンセプトでコンテンツを作ったので、少しでも考え方に共感いただけるなら見てみて頂きたい。

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