しがないマーケターの戯言

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【マーケティングの基礎】戦略と実行のプロセスまとめ

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最近仕事で新入社員向けのマーケティング研修をやらせていただいたり、マーケティング職に転職する方に相談を受けたりするので、自分の知識の整理も含めて、マーケターが日頃行っているマーケティング戦略を立てる基本的なプロセスを具体的にまとめてみようと思う。企画職やマーケティング職に転職する際の面接などでも、基本のプロセスの理解があれば役に立つかもしれない。

現状分析

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まずは現状を把握するための分析。己を知り、敵を知ることから始めよう。3C分析は、元マッキンゼー日本代表の大前研一氏が考案したあまりにもベーシックな手法である。Customer(市場、顧客)とCompetitor(競合)、Company(自社)の観点から現状を整理する。念のためだが、こういったフレームワークは答えを導き出す魔法の公式ではない。あくまでも、分析は考案のために観点が漏れないようにするためのツールだ。

C分析

Customer(市場、顧客)

市場の規模やトレンドを確認する。

・業界全体として既存の企業はどのくらい売上げているか

・どのような機会点があるか(訪日外国人が増えている、SNSの利用率が高まっている、高齢者が増えている、など)

・検索エンジンでどのくらい検索されているかを調べるのはニーズのトレンドの理解に役立つ(Google Trendはこれを調べるのに便利)

・全く新しい商品の場合(例えばAIスピーカーなど)の場合は、類似製品のトレンドを調べる(スマホのAI機能の変遷やトレンドなど)

Competitor(競合)

以下のような観点で、競合や代替品の状況を分析する。

・同じ業界の競合と、その業界内の順位(売上やシェア、店舗数など)

・競合のポジショニング(価格帯やサービス内容でカテゴリ分けする)

・代替品や新規参入者の把握(PC業界なら、タブレットは代替品)

・競合の直近の動き(最近のプロモーションやアライアンスなど)

Company(自社)

・自社の特性(強みや弱み)を分析、把握

・自社製品の売上(カテゴリやセグメント、時期別に)

・過去の類似の施策の成否(成功事例は踏襲できる)

4P(Product, Price, Place, Promotion)の観点で整理するとわかりやすい

ターゲット設定

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次はターゲットの整理。これは3C分析の「市場・顧客」と「自社」の特性を深く掘り下げるイメージ

STP分析

フィリップ・コトラーの提唱したSTP分析(Segmentation, Targeting, Positioning)がオーソドックスなフレームワークだ。

セグメンテーション

いくつかの観点で、顧客をカテゴリ分け&細分化する。

・デモグラフィック:年齢や性別、年収や職業などの観点

・ジオグラフィック:地理的な観点。住所や職場や行動範囲など

・サイコグラフィック:性格や好み、価値観などの観点

ターゲッティング

セグメントで分けたカテゴリのうち、どの属性をターゲットに据えるかを決定する。ベーシックなのは、現在その商品を最も多く買ってくれている顧客層をターゲットとして据えることだ。なぜなら、その顧客が最もその商品を必要としており、ボリュームもあるからである。例えば、現在の購入者を分析して、40代男性の郊外在住の顧客が多ければ、ターゲティングはその層に据えることが王道だ。

ポジショニング

競合と自社を比較した時に、どこにポジショニングするかをマッピングする。この場合は、競合分析で行った軸とは違い、顧客から見た軸を設定することがポイント。例えば、「高価格」と「低価格」ではなく、「高級志向」と「節約重視」など、あくまで顧客視点で市場を分け、ポジションを決める。もちろん、競合と大きくかぶっていない場所にポジショニングするのが基本だ。

プロモーション・広告戦略

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現状を把握し、狙うターゲットが明確になれば、次はどのようにアプローチするかの戦略を練るプロセスへと進む。

AIDAモデル

AIDAモデルは、Attention(注意)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Action(購買行動)という消費者の商品・サービスの購入までのプロセスを表したモデルだ。アメリカの応用心理学者のE.K.ストロング氏によって提唱された。AIDMAAISASなど同じようなモデルもあるが、どれを使うかは問題ではない。要するに、顧客の購買行動は段階があることを前提に、その検討段階がどのようなものかを仮定しておくことが重要だ。

例えば、あなたの会社がAIスピーカーという新しい商品をリリースしたとすると、まずはテレビや雑誌、ニュースなどのマスメディアで存在を知り(注目)、AIスピーカーとは何なのかを理解し(認知)、その必要性を感じ(興味)、他者のAIスピーカーと比較し、店頭に足を運んで実際に見て検討を深め、そのAIスピーカーを欲しいと思う(欲求)、そしてWEBサイトや店頭で購入する(行動)。などというプロセスだ。できる限りこのプロセスを細分化し、整理しておくことで、どの検討段階の顧客にアプローチするために、どういったコミュニケーションをとるべきなのか、という次のステップの検討の精度を上げることができる。

コミュニケーション設計

AIDAモデルによって顧客の検討プロセスを整理したら、次はどの検討プロセスの顧客に対し、どの広告メディアでアプローチするかを設計する。

まず、Attention(注意)やInterest(興味)の段階にいるいわゆる検討段階が「浅い」顧客には、マスプロモーションよりのメディア、つまりTV-CMWebのディスプレイ広告、交通広告、ブログサイトなどのコンテンツ系のメディアが一般的には適している。一方、Interest(興味)、Desire(欲求)といった検討段階が「深い」顧客には、Webのリマーケティング広告、ダイレクトメール、資料請求内のチラシなどのクロージングに強い媒体が有効である。

また、「期間」を設定することも、コミュニケーション設計では重要である。いわゆる「〇〇キャンペーン」などである。人は基本的に行動することが億劫である。「今購入いただくと〇%割引ます」という手法は使い古されているようで有効なのだ。ここでもAIDAは重要で、そのキャンペーンがキャンペーンが開始されたばかりであれば、Webサイトや広告物では、Interest(興味)を持ってもらうために、その商品の必要性を説明する、ニーズを喚起するようなキャチコピーやクリエイティブが必要になるだろうが、キャンペーンの締め切り直前であれば、Desire(欲求)の段階にいる顧客に対して、その商品を今買うことがいかにお得かを説得してクロージングを図るのだ。

具現化

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セールスコピーライティング

プロモーション戦略をいくら練っても、顧客が目にするのは、Webサイトやダイレクトメール、交通広告などの「最終アウトプット」だけだ。ここでは、そういった最終アウトプットとなる広告物のメッセージの角度を上げるための「セールスコピーライティング」の基本形を7つにまとめてみる。

●スペック型

スペックとは機能や特徴のこと。単純に提案したい商品やサービスの機能や特徴を紹介する。

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●メリット型

その商品の機能や特徴によってもたらされるメリットを提案するコピー。

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●ベネフィット型

ベネフィットとメリットはとても近いものだが、ベネフィットのほうが少し遠い顧客満足を提案するイメージ。

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●プッシュ型

今、購入したり入会したりして欲しい理由をプッシュする形。

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●シンパシー型

読み手の気持ちを表現して、共感を生み、興味を引き出す手法。

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●アテンション型

直接そのサービスと関係なくても、人が思わず見たくなるようなワードで引き込むタイプ。

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●メッセージ型

企業側からのポリシーやメッセージをコピーに落とし込むタイプ。

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(カメラ) すべての人に、好きなだけ残せる、思い出を。

(ヨーグルト) あなたの朝食を、より健やかに。

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使い分ける方法

これら7つの基本形は、どれが優れているかいないかというものではなく、広告物の役割や意図によって使い分けられるべきもの。検討プロセスと、自社起点・顧客起点という軸で考えると、このような分布になる。

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1つめの軸は、検討プロセス。「認知・興味・検討・購買」というAIDAに沿った検討プロセスの中で、どの検討プロセスにある人の気持ちを動かしたいか。もうすでにいろいろと検討して、商品理解がある程度ある人には、より詳しい商品の話をするのが良い。だから、スペック型やプッシュ型は、検討プロセスの右側に配置している。

2つめの軸は、自社・顧客起点。自社のスタンスを示して共感を呼びたい場合や、自社商品に圧倒的な競合優位性がある場合には、自社起点のコミュニケーション(メッセージ型やスペック型)が適していると言える。逆に、顧客のニーズから提案したい時には、シンパシー型やベネフィット型が適している。

効果測定

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どんな優れた戦略を立案しても、どんなに心に響く広告を作成しても、効果測定や総括がないと次につながらない。マーケターとして、マーケティングノウハウや成功事例を積み上げていくのも一つの責任である。マーケティング戦略を立案する際は、必ず何でその成否を図るのか、というKPIKey Performance Indicatorを設定しておこう。きっとそれは、売上/利益、新規顧客数、CPACost Per Acquisition)や、Webの施策であればPV, CV, CVRなどになるはずだ。

 

以上、マーケティング戦略立案のプロセスを簡潔にまとめてみた。1つの記事では書ききれないことも多いが、それはまた別の機会に。