しがないマーケターの戯言

読んで学んで、物を書/描く。

「写ルンです」の再ブームに見る「復活マーケティング」

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30年前(1986)に発売されたFUJIFILM「写ルンです」への人気が、最近女子大生を中心に再燃している。スマホで誰でも綺麗な写真がとれる時代に、とても面白い現象だ。その場ですぐプリントできる「チェキ」の人気も高い。チェキでプリントアウトした写真を、スマホで撮ってSNSにアップする、という不思議な現象も起きているほどだ。 

思えば、過去に流行っていたものや名作が、10年以上経って再び流行するという現象は時々見られる。

 ・チェキ(結婚式でもよく使われている)

・ファミコン(ファミコンミニとして2016年に発売)

・たまごっち(1996年に発売され、2017年に復活)

・ポケモン(2016年にポケモンGOとして大ブレイク)

・書籍のリメイクや漫画家(太宰治の名作などがカバーをリニューアル)

・カバー曲(過去の名曲を他の歌手がカバー)

特に正式な用語はなさそうだが、個人的にはこれらの再燃を「復活マーケティング」と呼ぶことにする。

復活マーケティングのメリット

復活マーケティングを活用することは、事業者側へのメリットも大きいように思う。

まず、過去にブレイクしていたことが前提なので、一定の世代には初めから認知があり、認知アップのプロモーション労力が軽くて済む。そして何より、商品の新規開発ではないので、開発費やその労力は非常に軽く済む。さらには過去の企画背景や販売結果データがあるので担当者は企画を立てやすいだろう。

また、流行から10年以上のスパンをおくことで、過去のターゲットから新しいターゲットへの広がりがある。例えば、ポケモンであれば、20年前に熱中した当時小中学生だった現在30歳前後の層が懐かしさのあまり最初に飛びついただろう。その熱中っぷりをその世代以外の世代が見て、過去にはターゲットでなかった層まで飛びつく。もちろん、この事例はVRを使ったコンテンツの面白さあってからこその大爆発だが。

背景にある顧客心理

10年以上も前に流行したものに今さら飛びつく顧客心理はなんだろうか。それは過去に熱中した人が「懐かしい感情」を持つことだろう。最初に流行し、熱中したあとは「もう古い」「飽きた」と思ってその商品から離れたはずだ。しかし、10年、20年という時間が「もう古い」という感情を「懐かしい」という感情に変化させたということだ。

ただし、もちろん過去に社会変化レベルの「ブーム」になっている必要がある。そして、タイミングを見誤ると顧客は「古い」という感情をもったままかもしれない。

「写ルンです」再燃の背景にある顧客心理 

では今回の「写ルンです」の再燃の要因となったものは何か。まず間違いなく、SNSインスタグラムの流行は大きな要因だ。特に20代の若者を中心に、写真を撮って自分のインスタアカウントにアップするという行動が日常化した。その中で、ユーザーたちは、個性的な写真、おしゃれな写真をアップすることに熱中している。

一方、現在のスマホはデジカメと遜色のない高解像度の写真を撮れるようになった。だからこそ、誰でも綺麗な写真を撮れるようになり、綺麗な写真は「コモディティ化」した。

その中で、写ルンですのようなフィルムカメラの独特な光の感じなどレトロなイメージが「かわいい」「おしゃれ」と捉えらたことで売り上げが再燃したということだろう。

今のデジタルネイティブの若者たちは、「リアルな写真」「正確な写真」を求めているわけではない。味のある個性的な写真を求めているのだ。

顧客心理を活かすマーケティング

FUJIFILMは上記の顧客心理とインスタの流行に上手く乗るためのマーケティングを行った。過去には実物の写真に現像するだけだったフィルムを、データ化できる仕組みを整え、写ルンですの味のある写真やエピソードを集めた特設サイトを作り、自社のインスタアカウントで様々な写真をアップしていった。

過去に大ヒットした商品というのは、10年以上の時を経て、その価値が再度見直される可能性を秘めている。一介のマーケターとしては、心に留めておきたい観点だ。